第九話 同居③
「カップ麺出来たよ! 召し上がれ!」
家に帰り、夕食の仕込みにかかる時間はたったの3分
「美味しい?」
調理法は極めて簡単、お湯を入れて待つだけ。
「うん。安定の美味しさだよ」
「良かった!! じゃあ明日の朝もそれにするね!」
「......」
「気に入らなかった? シーフード味なら良い?」
「......」
「だめ? コンビニとかでよく売ってる、
日本の美味しいラーメン屋さんとコラボしたのは?」
「なんか違う..」
「違う? 気のせいじゃない?」
「....。ところでさ、七瀬..」
「はい」
「七瀬が今食べてる奴は、何..?」
「これ? 調理本見て作った、玄米、お味噌汁、豚の生姜焼きだけど..」
何かがおかしい。
違和感を胸に抱きつつ、テレビをつけると、
横から彼女の手がにゅっと伸び、リモコンを奪われた。
「夜はニュース番組一択よね。YouTubeなんて論外」
「......」
何かがおかしい。
「ご馳走様!」
とりあえず、カップ麺のパックを捨てに席を立った時だった。
「待って! 捨てるんならついでに、
私の食べたやつの食器洗いもお願い!!」
「了解..」
数分後、皿洗いを終えた自分は、リビングに向かった。
「ふぅ..。食べたし少し休憩..」
「どいて!」
しかし、寝そべる俺の身体を七瀬はどかした。
「食後は軽い有酸素運動するから邪魔、どっか行って」
「......あのさ、、」
「何よ?」
「ここって、君のウチじゃないよね?
それなのにどうして礼儀の一つも弁えず、我が物顔で占拠してるのかな?」
「はぁ??」
その直後だった。俺は七瀬に顔を殴られ、腹を蹴られた。
「こっちの台詞よ。あんた何様のつもり?」
「え..」
「ここは私の家よ。ボケてんじゃないの? この”幽霊”!」
♢
「康太! 起きろ! 飯が出来たよ!」
「......」
どうやら、さっきのは全部夢だったらしい。
「カップ麺作ったよ!」
「......。あのさ....」
「....??」
「家事はやっぱり、分担制にしよう」
日別の割り当てを決めた。
「七瀬の料理作る日は、カップ麺だけか..」
目の前に置かれたそれを恨めしそうに啜ると、
横の席で同じものを啜る彼女は露骨に落胆していた。
「ごめんね。もっとレパートリー増やしたいんだけれど、
幽霊になってから料理なんて一度も作った事なかったから」
「そっか、料理本とか数冊あるけど読む?」
「うん」
「あと、昨日作り置きしてた野菜炒めあるけど、食べる?」
「食べる!!」
と、ずいぶん気前の良い返事が聞こえてきた。
「これは全部、康太が作ってるの?」
「そうだよ」
「家族は?」
「いるけど、元々シングルファザーなのと、
会社が家みたいな人種だからね。ここには滅多に帰ってこないよ」
「寂しくないの?」
「慣れだよ。子供の時は少し寂しかったな。
母さんが死んだのは、確か小三の頃だったっけ..」
「そう..。あの..」
七瀬は言葉を詰まらせた。
「別に気を遣わなくて良いよ」
「あ、うん..。その、康太の母さんって、死んだ後、幽霊になったりした..?」
そう尋ねられた瞬間、俺の身体と思考は止まった。
「..。ごめん。これ、答えなくていい奴..」
「....」
母さんは、幽霊にならなかった。
未練を残さず成仏出来たのだ。
「どうして..?」
この言葉が、不意に自分の口から漏れ出た。