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第七話 同居②

「少し出掛けるんだけど、七瀬も来る?」

「うん!!」


 東京都某区、タワマンの一室を抜け

エレベーターでエントランスに向かう。


「どこに行くの?」

「図書館。夏休みも始まったし、なんか借りようかなって」


「へぇ、康太は普段どんなジャンルの読むの?」

「うーん。ホラー小説が多いかな..」


「ホラーって、幽霊見える人が好むものなの?」


 訝しげに尋ねてきた七瀬に対し、こう応えた。


「俺の場合は好きというより義務に近いかな。

生まれた時から幽霊が見えるせいで、普通の人の

それ(幽霊)に対する価値観は理解しておかないと」


 あまり納得していなさげな彼女に続けて言った。


「価値観のすり合わせだよ。

普通じゃない事を、普通に見せる必要がある」


 そう言い切ると、彼女はこう言った。


「つまり、康太は普通になりたいの?」 とーー


 どう答えるべきか悩んだが、言葉を選び慎重に語った。


「なりたいかな。

普通に生きれば苦労しないし、

誰かに後ろ指を刺される事もない。

何事も穏便に、それがモットーだから」


「でも、私は普通じゃなくて良いと思う」


「そっか」


 七瀬は、普通、足並みを揃えるといった言葉に、

少なからぬ嫌悪感を示していた。


「人と合わせると、損するよ」


 この言葉の真意は分からないが、

根が強いというか、自分の意思が硬い子なんだなと思った。


「康太。さっき東京タワーで最後まで聞けなかった話の続きなんだけど、

結局、そこで私みたいに成仏できなかった子は、最後、どうなったの?」


「....」


 成仏できないという結果だけは伝えたが、

気になるのは事の顛末についてだろう。


 明日は我が身とでも思っているのか、一段と身構えていた。


「消えた」

「え..? 成仏できなかったんじゃないの?」


「分からないけど、消えたんだ。

ある日突然姿を消して、どこにもいなくなっていた」


「..。前世の未練を、自分で断ち切ったってこと?」


「どうだろう? 幽霊だしね、自分でそうするのは難しいと思う」

「じゃあ、どうして..?」


「....」


 分からないと、またそう答えるのも無責任だったためやめた。


 10年前のあの日、成仏できなかった彼女はーー


「自分が死んだ場所に、帰るって言ってた..」


 それっきり、会う事は無くなってしまった。


 白いワンピース服に、当時の女性にしては珍しいロングヘアを

後ろに一つにして束ねた、肌の白い女性だった。


「...。私、分かったかも!」


 そんな時であった。七瀬が大声を発した。


「成仏できる理由はまさにそれ! 自分の死んだ場所に戻るのよ!!」


「え....」


 ここから、彼女の推測に基づく説明が始まった。


「私はたまたま記憶喪失で、どこで育ったか分からない。

でも、幽霊は死んだ場所には止まらない。トラウマになってるから!」


「そういうものなの?」


「当たり前でしょ。だから、死んだ場所に戻れば成仏できる!」


 かなりの暴論だが、信憑性はあった。

幽霊が死んだ場所に戻らないというスタンスを取る場合、

あり得ない話でもなかったのだ。


「次の目標が決まったね。私の死んだ場所を探すぞ!」


 不謹慎な話題なのに、妙に明るい彼女が怖かった俺は、

あえて相槌を打つ事もなく、無愛想に俯き言った。


「お、おう..」

「暗い暗い! でも、探すっつっても記憶ないんだけどね」


「....。そっか、記憶障害..」

「ん? そんなに考え込んでどうしたの?」


「いや、七瀬ってさ、今、普通の人にも見えるよな?」

「うん..」


「さっき、東京タワーでクレープ3個くらい食べてたよな?」

「うん......」


「なんなら俺の家で、用を足したり..」

「う....」


 ならば、話は早い。


「病院に行けば、何とかなるんじゃ..」


「あぁ!! そうかも!!」


 




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