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第五話 裏鬼門②

 愛宕神社を出立した俺たちが次に向かったのは東京タワーだ。


 彼女を成仏させるべくあらゆる手を尽くすと決めた以上、

ここに来てその責務を放棄し逃げる気は起こらなかった。


「はぁ..。暑いね」


 道中自動販売機で水を購入したものの、日差しの強い

コンクリート製の道路の上を歩くのは中々に厳しいものだった。


「そうかな? このぐらいが暑い??」

「..。そりゃ、幽霊は暑さ寒さは感じないから..」


「でも私、幽霊だけど普通の人にも見られてるじゃん」

「うん」


「それに何だか、お腹も空いてきた感じ。

こんな事今までなかったのに凄い不思議だな..」


 と彼女が言うのにもちゃんとした訳があるように、

幽霊はお腹が空かないし、環境の変化による影響も受けない。


「気のせいじゃない?」


 しかし俺がそう言った時、彼女の腹からグゥと音が鳴った。


「....」

「聞かないでよ変態!」


「別に良いだろ。お腹が鳴るのなんて生理現象なんだし..」


 幽霊に、生理現象なんてものは適用されない。


 自分の発言が、その原則に反している事を悟った。


「....。さて、着いたね。東京タワー」


「うん..」


 過去に、神社で成仏出来ずに此処に来た幽霊は三人


 うち二人は成仏でき、もう一人は出来なかった場所である。


「多分、余程の未練、怨念がない限り、成仏出来ないなんて事はないよ」


「どうしてそう言い切れるの?」


「簡単だよ。君が”戦争”で死んだりしていなければね」


「戦争..?」


「そう、戦争。ここで成仏出来なかった人は、過去に一人だけ。

東京大空襲の焼夷弾で家屋が全焼し、柱の下敷きになって死んでしまった

貴族のご令嬢さんだった」


「え....」


「ちょうど10年前くらいだったかな」


「それで、どうなったの..?」


「..。成仏しなかった、出来なかったんだ」


 東京タワー展望デッキ行きのエレベーターの中で話した。


「ここの裏鬼門のゲートはもう、閉じ掛かってる..」


「なんで?」


 場の雰囲気を上げるために使った真っ赤な嘘だが、

それっぽく誤魔化した。


「そりゃ、アナログ放送なんて数十年前に終わってるし、

以来電波は通ってないからね」


「そんな..。じゃあ私は成仏出来ないの?」


「大丈夫だよ。完全に消えた訳じゃないから」


「ふーん」


 数秒後、俺たちを乗せたエレベーターは

東京タワーのトップデッキに到着した。


 高低差による気圧の変化のために耳鳴りが酷いのか、

真後ろを歩く彼女は、鼻をつまんで息を吐き出していた。


「キーンって音がする。耳が詰まってるみたい」


「しゃあないよ。”生理現象”だ」


「うん分かった..」


 それでも辛そうな彼女を引き連れ、裏鬼門のある

南西上へと移動をした。


「ここだよ」


「....」


 俺には分からないものの、過去にここで成仏した二人の幽霊曰く、

(裏鬼門)に至るまでの間に、光の道のようなものが見えるらしい。


「見える?」

「見えるって、良い景色だね」


「違う違う。そうじゃなくって、ここから伸びる

光の道の事だよ。その道を、ずっと歩いていけば成仏出来るよ」


「....」


 そう言うと、彼女はしばし沈黙した後こう言った。


「光の道? そんなの見えないけど..」




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