第四話 裏鬼門①
まずは落ち着こう..。
「どうして成仏出来ないの?」
細心の注意を払ったが、怒ったような物言いになった。
「そんな事知らないよ。言われた通りにしただけなのに..」
「うーん..。だから尚更不思議だよ。
俺のやり方で今まで成仏しなかった幽霊なんて一人しかいないのに..」
とここまで話したタイミングで、叔父が会話に割り込んできた。
「君たち、成仏とか、幽霊とか、一体なんの話をしているんだ?」
「はい、聞いて下さいよ!
私実はもう死んでしまった幽霊で、
成仏するためにここへ来たのに(成仏)出来ないんです!」
「そうなんだよね。どうしたものか..」
ん?
この時、俺の胸から違和感が生じてきた。
「叔父さん..。彼女の事、見えてるの?」
「何を言っているんだ?
見えるに決まってるだろう?」
「いやいや冗談でしょ? 叔父さん今まで一度も見えてなかったじゃん」
「ん??」
これ以上話しても埒があかなそうだったが、現状分かる事はただ一つ
それは、彼女の姿が俺のような霊感のない人間にも見える事だ。
初めての事態に困惑し、狼狽えた。
「ねぇ..。君さ..」
過去に、彼女と同じく神社で成仏しなかった人の原因はーー
「どうやって死んだの..?」
死んだ理由があまりに壮絶な人間は、成仏が難しいのだ。
「分からない」
しかし彼女の場合死んだ原因が不明である以上、
聞き出し手を尽くそうにもどうする事も出来ない。
「そっか。ならまず思い出して貰わないと、成仏は出来ないかな..」
「うん....」
彼女はそう言い、頷いた。
「よし。じゃあここにいても意味ないし..」
「ち、ちょっと待って..」
神社を立ち去ろうとする俺の裾が引っ張られる。
「せっかく来たんだし、お守り買って帰ろう!」
「えぇ..。高いしな。そもそもあんなの持ってて効果なんかありっこーー」
「むぅ..」
「買います」
女子にねだられ、ついつい財布の紐が緩んだ。
赤色のお守りを一つ購入、俺は持ち手を指に引っ掛けていた。
「お守りって色によって意味があるらしいよ。赤はどんなかな?」
「さぁ..。ただ一番オーソドックスだし良いかなって」
「ふーん..」
「....。恋愛成就だろ。赤のお守りって」
「へ..? し、知ってたの??」
「知らなかったよ。適当に言って、たまたま当たっただけ」
「汚いやり口!」
と彼女は叫んだがあまり気に留める事なく、
俺はお守りの口を開き、中に入っている厚紙を観察した時だった。
「あぁ、それ罰当たりなんだよ..」
「別に良いでしょ。俺、あんま迷信とかは信じないし..」
「そーなんだ..。でさ、話変わるけど..。
ここから先はどうするの? 私まだ成仏出来てないけど」
「はいはい。要は成仏させろって話でしょ。なら一つだけ、
神社以上に強いパワースポットがこの区内にあるんだ」
「え? 本当に?? どこどこ?」
そうせがまれたので、俺は近くにあり、かつ
天高く聳え立つ某電波塔を指差してから言った。
「あそこだよ。トーキョータワー」
「へぇ..。どうして?」
「皇居を中心とした時に、南西上に建てられた建物だからだよ。
裏鬼門て言葉、聞いた事ない?」
と尋ねると、しばらく逡巡し彼女は模範解答を示した。
「鬼や邪気なんかが最後に出ていく方角」
「そう。よく知ってるね。君の言った通り、
ここで大事なのは風水的に不吉な方角を指す上での裏鬼門じゃなくて、
邪気が最後に出ていく、つまり幽霊が現世から出ていく方角が南西”から”なんだ」
「なるほどね。じゃあわざわざ東京タワーに上らなくても、
その裏鬼門てのがある南西上に行けば成仏出来るんじゃないの?」
「無理だ」
と断言したのには訳がある。
「成仏出来る条件が揃った裏鬼門上の建物は東京タワーだけ。
今から必要な要素を出来るだけ簡単に説明するね」
指で2の形を作り、話を続けた。
「まず、幽霊が通る原始の裏鬼門は今の地上には存在しないくて、
ある程度の”高さ”が必要なんだ。目安としては200m以上くらい。
それにもう一つ大事な要素は電波塔である事」
「電波?」
電波云々の話は創作だが、話を続けた。
「そう。東京タワーはかつて、
アナログ放送に使われていた建物だったからね。
その際に生じた電波が、封印されていた裏鬼門本来の役割を解いたんだ」
「難しい..。でも、私は東京タワーに
行けば成仏出来るのね! 早速向かいましょう!」