第三話 成仏に至る手引き②
俺と彼女が部屋を出て即刻向かった先にあるのは神社だった。
「うわぁ、鳥居が大きいね..」
「そうだね」
石造りの階段の数が多く、上るだけでも一苦労
東京都某区の中でもそこそこ名の知れた神社である
「とうちゃーく!」
「うん」
とここで、俺はポケットからシャーペンを取り出し、
それを近くに佇む彼女に示すように見せた。
「成仏する為に必要な事なんだ。
まず俺の身体のどこかに触れて。肩で良いから」
右肩を差し出す。彼女の柔らかい手が触れた。
「オッケー。じゃあ次は、このシャーペンに触れて欲しい」
「え?? そんな事言われても幽霊はモノを持てないよ..」
「良いから、やってみてよ。理屈は分からないけど
俺の身体に触れてるうちは大丈夫」
「う、うん..」
ポワッと、彼女の手とシャーペンの間に静電気のような光の筋が通った。
「握って。30秒くらい」
「はい!」
30秒後、額に汗を溜めた彼女がついに手を離した。
「これで良い?」
「バッチリだよ! うん。必要な手順は踏んだし、
あとは奥にある社殿に向かってお祓いをして貰う」
「次は..?」
「え? 次も何もないよ。これで終わり、無事成仏完了ね」
驚愕したようで、半歩のけぞった彼女は再度僕と向き合う形を取った。
「早くない?」
「そうだね。成仏って意外と簡単でしょ?」
「....」
「拍子抜けだった?」
「へ..。いや、別に....」
とどうやら、彼女はあまり嘘をつくのが得意ではないらしい。
今も否定こそしているが、誰の目に見ても明らかな苦笑いを浮かべている。
「..。行こうか」
俺たちは社殿の中に入った。
「おぉ! また来たのか!!」
そうするや否や、かねてより来訪を心待ちにしていたのか、
俺の叔父で、この神社の住職である田中さんは、
俺が片方の手に持つシャープペンシルをじっと見つめ言った。
「..。邪気がこもっているね」
「はい。父さんが呪物コレクターで、
また海外のお土産で変なものを買ってきたんです」
と言うと、横に立つ彼女が叫んだ。
「ちょっと。邪気、変なものってどういう意味よ?
それにこの人に成仏させて貰うんでしょ?
私の事見えてないみたいだけど本当に大丈夫なの?」
まぁ、不安がるのも無理のない話だ。
「じゃあ、早速始めさせて貰うよ」
「はい」
田中さんは静かに腰を下ろす僕を見据えつつ、
奥にある別室へ向かい、祈祷用の御幣を持ち出した。
「....」
読経が始まる。そこそこ愛用していた俺のシャーペン(木製)が
燃え盛る炎の中にぶち込まれ、灰になっていった。
「終わったよ」
「相変わらず早いですね仕事が」
「うん。また父さんが
変な物を買ってきたらいつでも来るんだよ」
「はい!!」
とまぁ、以上が幽霊を成仏させる簡単な手順である。
そこまで時間もかからない上に、迷える魂を救済出来るという
達成感も得られる、楽しいボランティアのような感覚だ。
「ふぅ..。一仕事終わったな..」
成仏させた後、この神社を出た先にある茶屋で飲むラムネが俺は好きだ。
「後は、オミクジでも引いて帰ろうかな..」
そう思い、歩き始めたタイミングだった。
田中さんが慌てた表情で外に飛び出しこう捲し立てるのだ。
「駄目じゃないか..。彼女さんだけ置いていっちゃ..」
「え....」
信じられない者を見た。というよりも、、
「田中さん、見えるんですか..?」
「何を言ってるんだ? ここにいるだろう?」
さっきは見えてなかった..。じゃあこれは、、
「どういう事だ..」
「どういう事って、それはこっちの台詞。
なんで言われた通りにしたのに、私は成仏できないわけ?」
そこには、頬を膨らませた彼女の姿があった。