第二話 成仏に至る手引き①
「まずは身体を冷やして」
「えっと..。君の名前は?
それより、どうして私の姿が見えているわけ?」
「簡単さ。俺は幽霊を見れるし触れる。
こうして会話も成立する。特殊体質の持ち主だからだよ」
「へぇ? そんな人とは初めて会った!
てっきり同じ幽霊に引き連れられてきたのかと思ったよ!」
そう言って、彼女は笑顔を見せた。
「あ、自己紹介が遅れたね。俺は、矢場康太っていいます。
高校二年生で年は16」
「そうなんだ。よろしく。私の名前は..えっと??
ごめん。思い出せないや」
「良いよ。大丈夫、別に記憶障害は珍しいケースじゃないからさ」
などと簡単な挨拶を交わしつつーー
「えっと。じゃあ今から俺のやる事を端的に説明するね。
単刀直入に、俺は君に成仏して貰いたい。だからその為に手を尽くす」
会話も過熱してきたタイミングですかさず言を挟む。
「へ?」
疑問に思うのも無理はない。
「どうして..? 私、成仏するなんて正直、今まであまり考えた事なくて..。
死んでから何年彷徨い続けているかもよく分からないし..」
「そっか。じゃあさ、君は、成仏するって、どういう事か分かる?」
「え、知らない..」
「うん。それが答え。成仏してどうなるかは、分からないんだ」
「えぇ!?」
あくまで平然とした体を装い、話を続けた。
「インドで信仰されているヒンドゥー教では、死後は輪廻転生し、
また新たな生命体として第二の人生を始めるとされていて、仏教なんかは、
往生したら極楽浄土に行くとされているように、死んだ後、つまり成仏してから
どうなるかの定義は曖昧で、俺にもよく分からないんだ」
「そんな..。じゃあ、わざわざ危険を犯してまでする意味ってあるの?」
「あるよ」
と断定したのには訳がある。
「俺には幽霊が見えるから、幽霊ってものの存在も認めてるし、
成仏させる術を持ち合わせている。けれど、俺のような人間は恐らく多くないだろう。
君が今話せているのだって、本当に偶然の、巡り合わせに過ぎない」
「..でも」
「君は幽霊と話した事はある?」
「あるけど..」
「じゃあさ、君が話した幽霊達は、死んでから何年くらい経ってた?」
「うーん? 会話が”成立”する範囲だと、10年20年、多い人で50年ー
それ以上はもはや(会話が)成立するレベルでは無かったかな..」
「だろ? ここが問題なんだ。幽霊は成仏できる方法を知らない限り、
一生幽霊として現世を彷徨い続ける羽目になる。何年経ってもずっとね..」
「そんな..。でも、幽霊同士でお話し出来るから退屈では無いんじゃない?」
「そうだね。確かに会話を交えればある程度の退屈もなくなるし、
いよいよ成仏の必要性はないと感じるかもしれない。ただ、90年」
俺は両の手に9の形を作り彼女に示した。
「これが大体の目安だよ。90年を過ぎると、幽霊は徐々に、
自己の認識が曖昧になってくる。丁度人間の老人が認知症になるのと同じでね」
「え..?」
「嫌だろ? そんなの..」
すると途端に、事態を楽観視出来なくなった彼女の顔が
張り詰めた雰囲気を帯び始めた。
「嫌だ..。そんなの、嫌だ..。お願い、成仏させて!!」
「オッケー! じゃあ今から行く先に着いてきな!」
「うん..」