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第一話 星のふるまち

 拝啓:七瀬志穂


 2023年 8月5日


 高校二年の夏、アイスを買いに近くのコンビニまで足を運んだ。


 蝉の鳴く声がうるさく、気温は四十度台、湿度も高く最悪な一日だ。


 彼女と出会うまではーー



「ねぇ知ってる? 家の中とか街中によくいる白い服着た

ロングヘアの女性って、人間じゃないんだよ!!」


「はぁ..。何言ってんのお前? 気持ちわる..」


 俺は昔から幽霊とか、とにかくそういう

普通の人が見えないものを見る事が出来た。


 そのため、小学生の時までは周囲の人と

会話が噛み合わず、いじめられた数々のエピゾードは

トラウマであるなため割愛させて頂こう。


 さて、話は中学時代、ここまで成長すると、流石の僕も

集団の中で浮かない為の処世術のいくつかは身に付けた。


 主に声を発さず、目線を合わせず、常に寝たふりをする。


 そんな生活を三年も続けたせいか、今度は学年屈指の

根暗として、『幽霊』というあだ名をつけられた。


 幽霊が見える俺にこの称号は実に皮肉なもんだが仕方がない。


 とにかく、ここら辺で人と話す重要性を学んだ俺は高校へ進学。

今では波風立てぬよう、親友とは名ばかりのヨッ友を数人作り、

面白くない下ネタトークでバカ笑いをするつまらない日々を送っている。


「康太、お前は彼女とか作んねーの?」


 今日は夏休み前最後の登校日であったため、授業は午前中で終わった。


 その後、数十人でカラオケに向かったのだが..


 下山しもやまという、他人の色恋沙汰をやたら詮索しては、

入手した情報をクラス中に吹聴して回るという、

根性のひん曲がった男が俺に尋ねた。


「好きな人とかいねーの?」

「いないね」


「じゃあ、気になる人は? 友達になりたい人とかは?」

「いねーよ」


「何だよ。つまんねーの..」


 つまらなくて結構だ。

自分と他人との境界線を弁えず、人の領域にズカズカと

侵入してくるこの手の人種は、無視するか軽くあしらうのが吉である。


「じゃあな!」

「おう!!」


 今日もそつなく会話を済ませ、帰路に着いた。


 家まではここから歩いて20分ほど。


 暇だし近くのコンビニでアイスでも買って帰ろうと思い、

寄り道を食って、ガリガリ君を一本購入した。


 その時だった。


 すぐ横の街路樹の下、道端に倒れ込んでいる女性がいる。


「え..」


 しかし、普通の人なら焦るこの場面でも、

俺は冷静に対処せねばならない。


 その訳を話す前にひとまず、例の女性の近くに寄り、道ゆく通行人の様子を伺った。


 彼らは一様にして歩きスマホをしていた。

倒れている女性には目もくれず、都会はなんて冷たい所なのだろう!? 


 それは”普通”の人間が、

倒れているのを無視した場合のみ適用される事であって、

ここでは例外。というのも、彼女は”幽霊”だからだ。


 識別法は至って簡単。まず、幽霊の疑惑がかかった人間の元へ近づき、

通行人の視線を伺う。今回のような事例は特に顕著で、仮に彼女が本当の人間で

無視する場合、通行人は一瞬、気まずそうな顔をする。


 それからすぐに視線を外すという

手順を踏み行動するのだが、彼女は幽霊だ。


 通行人は、路傍の石ころには気も止めないのと同じで、

倒れる彼女に見向きもしない。そこに存在しないかのように扱う。


 なぜなら、通行人に彼女は見えていないから。

普通の人に、幽霊は見えないのだ。


 しかしそれが分かったところで、俺がやるべき事は何も無い。



「あれ..。ここは??」


「あ、起きた?」


 本当に、やるべき事はない。


 ただ、幽霊にあの手この手を尽くし成仏して貰う。


 275人


 これが、俺が今までに成仏させてきた幽霊の数である。








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