第六話
しばらくの撃ち合いの後、銃声が止まった。
用心しながら辺りを窺う。どうやら敵は全滅したようだ。
しかし、こいつらからの連絡が絶えれば増援が来る。
ケイは、隊長らしい男が身につけていた通信機と認識票を取り上げた。
「こちら、チャイカ一五、目標を殲滅した」
ケイは通信機に言った。
「了解。速やかに帰投せよ」
「了解」
ケイは通信機と認識票を元に戻すとミールの持っていた銃と弾薬をはぎ取った。
「すぐにここを離れるぞ」
そう言うと足早に歩き出した。
出来れば備蓄庫に戻って弾薬の補充をしたかったが、連中が偽の通信に気付いてやってきたらやっかいだ。
とりあえずミールから取り上げた銃と弾薬でしのぐしかない。
銃など使う事態にならなければ一番いいのだが。
最寄りの村まで三日かかった。
ティアはこの辺に詳しいのか、地図も見ないでこの村へ辿りついた。
その三日間でティアのことが色々と分かってきた。
ティアは頭が良く、素直で思いやりがある女の子だった。
少々気が強いのが難点だが。
ケイはいつの間にか好感を持っていた。
まだラウルのように気楽には話しかけられないが、こちらが歩み寄れば気軽に口をきいてくれるだろう。
この村は、この前銃撃を受けた場所から三日ほど歩いたところだから、ここならミールにも見つからないだろう。
村は、丁度ウィリディスから種を買ったばかりで、まだ種まきをしていなかった。
村長はティアの顔を覚えていて歓迎してくれた。
ケイとラウルがティアの連れだと知ると、二人のことも喜んで受け入れてくれた。
ティアのことを最初はお荷物だと思っていたが、いい人間だと分かってきたし村にいられるのは助かる。
いくら栄養満点とはいえ非常食は食べた気がしない。
普通の食事をもらえるなら少々きつい労働くらいなんでもない。
実際、ケイがまだ幼かった頃は祖父とそうやって村を回って農作業を手伝い、その日の糧を得ていたのだ。
そのままどこかの村に居着いていれば、ミールに追われることもなく平穏に暮らしていただろう。
自分はどこで道を間違えてしまったのだろう……。
ティアはバケツに薬品を入れるとその中に種を浸した。
「一晩こうしておけば、今年の秋は種が出来ますよ」
ティアは村長を見上げて微笑んだ。
「ありがとうございます」
村長は、頭を地面にこすりつけんばかりにしておじぎした。
ケイはそれを見て改めて驚いた。
村長はティアの祖父と言っても通る年齢だ。
その村長がティアを有難がっているのである。
どう考えたって村長の方が年季がいってるだろうに……。
年季だけではないものがあると言うことか。
まぁ確かに三倍体の植物を二倍体にしてしまうなんて簡単に出来ることではないが。
しかし買うのと作るのとではそんなに違うものなのか。
その疑問をティアに直接ぶつけてみた。
ティアは、ケイが話しかけてきたことに驚いたようだが、
「すごく値段が高いのよ。独占企業だもの」
あっさり教えてくれた。予想通り素直な性格らしい。
「作物を売ったお金の大半が、種代に取られちゃってほとんど手元に残らないの」
ティアが言った。
完全に巻き上げてしまうと買わずに他の手段をとられてしまうため多少は残すらしい。
普通に作物が出来た年はなんとかなる。
しかし不作にでもなったら次の年の種を買うお金など残らない。
ウィリディスはそう言うとき法外な利子で種代を貸すのだという。
だから二倍体の種は貴重なのだ。
「じゃあ、どうして全部二倍体に戻さないの?」
ラウルが不思議そうに言った。
バケツの中の液体にはまだ十分余裕がある。
にもかかわらず液体に浸した種は一部だった。
「二倍体の作物は商品価値が低いのよ。種があると食べづらいでしょ」
ティアが答えた。
確かに昔、種子がある果物を食べたとき邪魔だと思った。
「だから少しだけ二倍体に戻して、売る分は三倍体のままにしておくのよ」
二倍体に戻した種は、種を増やすために使われる。
一つの種から生えた植物が沢山の種をつける。
そうやって種を増やしていって不作の時に備えるのだ。
「そうなんだ」
ラウルが感心したように言った。
『最後の審判』以来、ミールは人を殺して回り、種を作れる知識を持つウィリディスは技術を独占して暴利をむさぼる。
確かにこの世は地獄になったようだ。
その夜、村長の家の一室で寝ていたケイは人の気配で目が覚めた。
ほぼ同時に玄関のドアが蹴破られた。
ケイは枕の下に入れていた拳銃を掴んで飛び出した。
男達が数人、玄関に立っていた。
揃いの制服のようなものを着ているがミールのものではない。
飛び道具の類も持っていない。
持っていたらミールに殺されるから当然と言えば当然だが。
「ティアという女がいるはずだ」
乱入してきた男が言った。
どうやらウィリディスらしい。
ケイは軽蔑のまなざしでウィリディスを見ると男の一人に拳銃を突きつけた。
ラウルも銃を構える。
ウィリディスの男達が顔色を変えた。
持ってはいなくても拳銃がどんなものかは知っているらしい。
「待って!」
寝起きらしいティアがウィリディスをかばうように飛び出した。
「私が行けばいいんでしょう。行きます」
ティアはウィリディスの男に言った。
それからケイとラウルの方を向く。
「ラウル、それを下ろして。ケイも」
ケイはラウルと顔を見合わせた。