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Starlit 1996 - 生命の降る惑星 -  作者: 月夜野 すみれ


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第四十六話

「軍事兵器を平和のために使っちゃいけないって決まりはないよな」


 ケイはコンソールを操作すると攻撃衛星の目標を地上の山脈にセットした。


 山が低くなれば風が通るようになり内陸に雨が降るようになる。


 軍事衛星は山脈を攻撃し始めた。

 攻撃を受け、風を遮っていた山脈の標高は徐々に低くなっていった。


 攻撃は何時間も続いた。


 その間にケイとティアは、ラウルとミールの隊員を外に運ぶと穴を掘って二人を(とむら)った。


 二人がコンピュータールームに戻ってきてもまだ攻撃は続いていた。


 ――と、そのうち次々と人工衛星のオーバーヒートを示す赤い点滅が始まった。

 それでも攻撃を止めなかった。


 兵器のような悲しみしか生まないものなどいらない。


 赤い点滅が一つ、二つと消えていった。オーバーヒートして爆発したのだ。

 最後には赤い点は全て消えた。


「これで雨が降るようになるの?」

「そのはずだ。それに地上を狙う軍事衛星も全部無くなった」

 ケイはスクリーンを見ながら言った。


「『最後の審判』って名前、和実達がつけたのかもしれないわね」

 唐突なティアの言葉にケイは戸惑って彼女の顔を見た。


「『最後の審判』の後、神の国が降りてきて地上は楽園になる」

 ティアが言った。

「え?」

 ケイが振り返る。


「おじいさんから聞いてない?『最後の審判』はこの世の終わりじゃない。楽園の始まりだって」


 そう言えば聞いたことがあるような気がする。


「その通りになるのね」

 ティアはそう言うとケイの肩に頭をもたせかけた。


 そうだ。


 相変わらずミールやウィリディス、それに盗賊などはいるが、もうすぐ地上は緑に覆われ沢山の動物達が生息する楽園に生まれ変わる。


 内陸へ行けるようになれば宇宙から届く食料が手に入るようになるから食べ物を巡る争いもなくなる。

 雨が降るようになるから水を巡る争いも。


 適度な雨で生命力が増した植物達によりエビルプラントは駆逐されるはずだ。

 多少残ったとしても他の生き物の脅威になるほどの勢いはなくなる。


 スクリーンに映っている点の集まりの一部がアウラから離れていく。


「あの点は?」

 ティアが訊ねた。


「ノア(スリー)だ。審判前の技術が乗ってる」

 ケイが答えた。


「あれはどこに行くの?」


「……これは俺の思い上がりかもしれない」


 ミールの教えが心の底に残ってるのかもしれない。


「今の人間があれを手にするのはまだ早いと思うんだ。だからあれはこの星系の一番外側を回る惑星の軌道上に移動させる」


 いつか、人間が自力でそこまで行かれるようになった時なら、あの技術の使い道を間違えることもないだろう。



 その夜、空が泣いた――



 軍事衛星の破片は大気圏で燃えて流星となり夜空に降り注いだ。

 流星雨は三日間続いた。


 ケイとティアは手を取り合って空を見上げていた。


「ごめんね」

 夜空を見上げながらティアが謝った。

「え?」

 ケイは意味が分からずティアの顔を見た。


「キーワード、すぐに言えなくて」

 ティアが言った。

「ああ、それか。それは別に……」


〝緑の魔法使い〟のキーワードは二つ目の鍵だ。


 一つ目の前に聞いても意味はない。


「キーワードは聞いてたけど、伝える人の顔や名前どころか性別や年すら分からなかったから」


 まぁそうだろう。

 カイトが和実の記憶を赤ん坊に移植するのは十年後ということになっていた。


 それまでに協力者を探し二つ目のパスワードを託すことになっていた。


 それが二代目の〝緑の魔法使い〟つまりティアの母親だった。

 本来ならキーワードを伝えるのはティアの母親だったはずなのだ。


 つまりティアの両親もケイがどんな子供なのかは知らなかった。男か女かすら。


 カイトにしても三人目の緑の魔法使いがいるとは知らなかったはずだ。

 ティアの母親は万が一に備えてティアにキーワードを伝えていたのだろう。


 実際、ティアの母親はずっと前に亡くなっているからティアに教えていなければケイは記憶を取り戻さないままだった。


「会えるとは思ってなかったし、ケイがそうだってなかなか確信が持てなくて……」

 ティアが言った。


「でも、すごい偶然だね」


 ティアの言葉に、ケイは和実が一花と初めて会ったときのことを思い出した。


 本来なら行かないはずの場所、本来ならしないはずの行動の結果、和実と一花は出会い恋に落ちた。


「二人が同い年で、ケイが男の子で私が女の子で、ケイを好きになって……」


 確かに、和実の記憶を持つ者は別に男である必要はなかったのだ。


 それに三代目の緑の魔法使いが女性だったのも偶然だ。

 もしかしたらティアは男に生まれていたかもしれない。


 和実の記憶を植え付けられたのが男で、三人目の緑の魔法使いとして産まれたのが女で、その二人が出会い互いを好きになる。

 それはすごい偶然だった。


「まるで奇跡だね」

 ティアの言葉にケイは頷いた。


 それから、流星雨の合間に見える明るい星を見上げた。

 あれは隣の惑星だ。


「一段落ついたら、希望者を募って隣の惑星に行かないか?」


 隣の惑星アウラⅡは既に改造を終え人間が移住してくる日を待っている。


「アウラⅡにはミールもウィリディスもいない」

 ケイが言った。

「それもいいわね」

 ティアがすぐに承諾した。


 四日目、雨が降り出して流星は見えなくなった。


 もうすぐノアⅠが降りてくる。


 命の種を宿した豊かな土と共に。

 種はすぐに芽吹き荒野は草原になり、森になるだろう。


 地上に緑が戻る頃、ノアⅡが動物たちを連れて降りてくる。

 やがて地上は生命にあふれた地へと戻るだろう。


 そしていつか子供にこう言うのだ。


「昔、生き物は空から降ってきたんだよ」

いくつかの点についてサイエンスライターの彩恵りりさんに相談しました。ただし全てについて確認をしたわけではないため、考証に間違いがあればそれは私の責任です。

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