第四十話
いきなり大地が大揺れに揺れた。
真夜中だった。
ベッドから放り出された和実は同じく落ちてきた一花を受け止めると、なんとかベッドの下に押し込んだ。
一花に続いて自分もベッドの下に潜り込むと揺れが収まるのを待った。
「何が起きたの!」
「地形を変えてるんだ」
自分も関わっているプロジェクトだったから何が起きたのかはすぐに分かった。
しかし、誰が、何故、今、こんな事をしたのかは見当もつかなかった。
大きな揺れが収まると和実は大急ぎで服を着て研究所へ急いだ。
地面は小刻みに揺れていた。
和実が辿りついたところで見たのは装置の前に立っているスパイドとジムだった。
警報がうるさいほど大きな音で鳴っていた。
ジムは笑っていた。
「これで戦争が終わる」
繰り返しそう呟いていた。
和実は何が起きたか一目で理解した。
スパイドがジムをそそのかしたのだ。
しかし、こんな事をしてスパイドにはどんな利益があるのかは皆目分からなかった。
目の前のスクリーンには世界地図が映っていた。
その地図がゆっくりと変化していく。
大陸の各地に赤い点が点滅していた。
赤い点は生物兵器や化学兵器を扱っている施設である。
そこで扱われているのは戦争をしている国が開発している兵器だ。
その威力は想像もつかないほど大きい。
それらが流失したら……。
地獄になる。
今までの戦争が子供の口喧嘩に思えるくらい最悪の地獄。
和実はただ立ちつくしたまま変化していく地形を見ていた。
予想は当たった。
いや、当たらなかったと言うべきか。
想像以上の地獄が待っていた。
ジムが引き起こした地形の変動は平地を高い山脈に、山があった場所を海に変えた。
山脈は風の流れを遮るようにそびえ立った。
綿密に計算されて今の地形にされたのは間違いない。
大気の流れが変わり、季候が大きく変化した。
高い山脈に遮られて内陸には雨が降らなくなった。いずれ内陸は荒野に変わる。
壊れた生物兵器の研究施設から漏れだした細菌やウィルスによって複数の強力な伝染病が世界中に蔓延していた。
薬品工場も破壊されたから薬もない。
仮に無事なところがあったとしても物流が機能していないから必要な人に届けることは出来ない。
化学兵器は水を汚染し飲んだものの命を次々に奪っていった。
植物は枯れ食料はなくなった。
宇宙港の発着場は破壊されて離着陸が出来なくなったため宇宙からの食料は届かなくなった。
地形を変化させたことに伴う大地震で町は瓦礫の山と化し、国が引き裂かれたことで警察は機能しなくなり無法地帯となった。
そんな中で有毒植物が産まれた。
いや、もしかしたらどこかの研究施設で作られていたものが流出したのかもしれない。
葉、茎、根の全てに毒があり、樹液も猛毒で、燃やしても有毒ガスが出ることから〝エビルプラント〟と呼ばれた。
今のところはフィトンチッドに弱いという特性のせいで、ほとんど生えていないが今後はどうなるか分からない。
もう安全な場所はどこにもない。
最初の地形の変動による大地震で二十五億人の人口は一万分の一になった。
今、蔓延している伝染病と食糧不足で最終的に生き残る人口は百万分の一だろうと言われている。
「こんなはずじゃなかったんだ。俺は戦争を止めたかっただけなんだ」
ジムは会う人ごとにそう言って回っていたが取り合うものはいなかった。
今、ジムにかまっていられる人間はいないのだ。
和実は何も言えなかった。
すんでしまった今は将来どうするかを考えなければならない。
ジムが苦しんでいるのを知っていた和実は、スパイドにそそのかされたジムを責める気にはなれなかった。
しかし安易な許しの言葉を言うには犠牲が大きすぎた。
半月後、ジムは自室で自殺した。
* *
薬の効果があったのか、ラウルの体力が勝ったのか、三日もすると起きて自分で食事が出来るようになった。
食事と言っても携帯食だが。
「迷惑かけてごめんね」
ラウルが謝った。
「気にするな」
「そうよ。困ったときはお互い様でしょ。ラウルにはいつも助けてもらってるし」
ケイとティアは笑って答えた。
「有難う」
ラウルもすまなそうな表情をしながらも笑った。
三人は緑地帯に戻ることにした。
備蓄庫に籠もっているのは息が詰まるし食事も携帯食ばかりで飽きてきていたところだ。
森にはまだ食べられる山菜があるはずだ。
ラウルを背負っていた行きより帰りの方が断然早かった。
緑地帯に戻るとティアは早速山菜を見つけた。
三人はしばらく山菜探しに没頭した。
ようやく集められるだけ集めるとティアが川で洗って食べやすい大きさに切った。
「あっ!」
ティアの声にケイとラウルは振り返った。
「どうした?」
ケイが慌てて振り返る。
「今、ウサギがいたの」
ティアの言葉に安心して力が抜けた。
「ホント? じゃあ、ウサギ捕る?」
ラウルが言った。
「たまには肉もいいかもな」
ケイは荷物の中からロープを出した。
ラウルもロープを出して罠を作り始めた。
ティアもナイフで枝と切っている。
「ティアも罠で動物を捕まえたりするの?」
ラウルが意外そうに言った。
「時々ね。冬なんかは山菜が採れないから」
ティアが答える。
「そっか。それもそうだね」
ラウルが納得した様子で頷く。
手早く作り上げた罠を見せ合うとケイ達とティアでは作りが微妙に違った。
「人によって違うものなんだね」
ラウルのはケイが教えたものだからケイと同じ作りである。
三人はそれぞれ離れた場所に罠を仕掛けた。
その後はウサギが出てきやすいようにケイ達は地下鉄の構内に入って待った。
三人で輪になって座る。
「これからどうするの?」
ラウルが口火を切った。
「分からない」
ケイは首を振ると、
「正直、見当もつかないんだ」
率直に答えた。




