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Starlit 1996 - 生命の降る惑星 -  作者: 月夜野 すみれ


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第三十七話

「僕も予備に一つ持ってようか?」

 ラウルが言った。

「そうだな」

 ボート探しに時間はかかったが、まだ日は落ちてなかった。


 ここは森にも近い。

 三人は夕食用の山菜を探しに行くことにした。


 このごろになってようやくケイやラウルも少しは食べられる植物が分かるようになってきた。

 それでも一応ティアに確認はしていた。腹を壊して寝込んでる暇はないのだ。


 数日後、ようやくクィエス第二研究所が遠くに見える場所に辿り着いた。


 ここは砂浜だった。波が打ち寄せてケイ達の靴を濡らす。

 沖あいにクィエス第二研究所の建物の上部が見える。


「どうする? ゴムボートで行ってみる?」

 ラウルが聞いた。


「いや、今は干潮だ。引き潮で上の方が見えるだけって事は満潮になったら建物は全部沈む。行っても無駄だ」

 ケイが答える。


「水に沈むとダメなの?」

 ティアが不思議そうに訊ねた。


「コンピュータは精密機械だからな。お茶をこぼす程度ならともかく、全部水につかったんじゃ使い物にならないだろう」


 しかも水中にあった期間は三十年である。

 それに海は潮の流れがどうなっているか分からない。


 下手に岸から離れる潮流に乗ってしまったら陸に戻れなくなるかもしれない。

 他にクィエス研究所に関係した施設はあっただろうか。


 和実はクィエス研究所から滅多に出たことはなかったから他にどんな施設があったかほとんど記憶にない。

 第二研究所を思い出したのは一花と一度だけデートで行ったことがあったからだ。


 この第二研究所にはこの星で一番大きな水族館があった。

 海洋研究施設だから陸上のことで役に立つことがあるとは思えない。


 それにしても、記憶が残るのも善し悪しだな……。


 和実はコンピュータ科学と土壌改良、環境科学などの学位を持っていた。

 その知識を全く勉強していない人間が受け継ぐ事が出来るのは確かに便利だ。

 誰でも労せずして学者になれる。


 だが残るのは学問の知識だけではない。

 生い立ちや一花との生活など、個人的な記憶までが受け継がれてしまう。これはプライバシーの侵害だ。


 だからこそ記憶の抽出と移植という技術が百年以上も前に開発されていながら改良されるだけで実用に用いられなかったのだろう。

 生きてるうちに記憶を取り出されて大勢の人に移植されることは自分の生活全てを公にするのと同じだ。


 かといって死んでからでは正しい記憶が受け継がれたかどうか確認のしようがないし、それだけ待っていたら知識は古くなってしまってほとんど役に立たない。

 学問というのは日進月歩だからだ。


 和実は自分の記憶を受け継ぐことになる人間と顔を合わせることになるとは思っていなかったから記憶を残すことが出来たのだろう。

 もし顔を合わせることになったら気まずいに違いない。


 顔を合わせることはあるのだろうか。


 カイトは十年前まで生きていた。

 和実や一花が存命中でもおかしくはない。


 それにしても今度こそ行き詰まってしまった。

 クィエス研究所から帰ってくるのが早すぎたのだろうか。


 和実や一花の部屋に行けば何か手がかりがあったのだろうか。

 いや、それなら和実の記憶にあるか、でなければ祖父か一花が言ったはずだ。

 やはり手がかりはあの一花の映像だ。


 だが、何を意味しているのかが分からない。

 一花が本当に言いたかったことはいったい何だったんだろう。


「ねぇ、ケイ。ここから西に数キロ行ったところに第二研究所の関連施設があるよ」

 ラウルが祖父の地図を見ながら言った。

「エビルプラント帯の内側かどうか、ちょっと微妙だけど」

 ラウルの言葉にケイは考え込んだ。


 和実の記憶にもなく、祖父も一花も言及しなかった施設に何かあるとは考えづらかった。


「ケイ!」

 ティアの鋭い声にケイは我に返った。


 ティアとラウルが南の方を見ている。

 土煙が立っている。車が近づいてくるのだ。


 ミールか、ウィリディスか。

 どちらにしろ敵であることに代わりはない。


「どうする?」

「あそこに入るのは?」

 ティアは地下鉄の入り口を指した。


 車はまだ遠い。

 もちろん、双眼鏡でもう見つかってる可能性はあるが、うまくいけばやり過ごせるかもしれない。


 ケイ達は地下鉄の入り口に入った。

 中は水が溜まっていた。


「海水が流れ込んだんだな」

 ケイが言った。


 この地下鉄は水に沈んだクィエス第二研究所にもつながっている。

 つまり海の下を通っていると言うことだ。


 ケイ達は腰まで水につかりながら第二研究所とは反対方面へと向かった。


 地下鉄構内は真っ暗だから明かりをつけないわけにはいかないが、暗闇の中での明かりは目印にもなってしまう。


 ケイは敵が追ってきていないか、時折立ち止まって耳を澄ませながら先へ進んだ。


 分かれ道があると海から離れるルートを選んで進んでいった。

 水はどこまで行っても引かなかった。


 数時間ほど進んだところで足を止めた。

 これ以上奥へ行くと、荒野の中に出てしまう可能性がある。


 腰のところまで水が来てるから座ることは出来ないが、かといって地上へ出るのは賭だ。

 車は徒歩よりずっと早く移動できるのだ。

 下手をすると追い越されて、待ち伏せされている可能性もある。


 しかし、もう何時間も歩きづめだった。

 ラウルはともかく、ティアは相当疲れているだろう。


 三人は駅に着くとホームに上がった。

 ホームも多少水につかってはいたが、ベンチまでは届いていない。


「二人はベンチで待っててくれ。上に上がって様子を見てくる」

 ケイはティアをベンチに座らせてから階段を上った。


 辺りを見回してみたが、それらしい姿は見えなかった。

 北の方には川沿いの緑地帯らしき森が見えた。

 ケイはティア達の元へ戻るとそのことを告げた。

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