第三十二話
男達は、何が起きたのかも分からないと言う表情のまま、ティアの上に倒れていった。
全員殺したところでティアのそばに行き、彼女の上に倒れている男達をどけて抱き起こした。
ティアは震えていた。
彼女の身体には、撃ち殺した男達の血が至る所に飛び散っていた。
不意に背後から葉擦れの音がした。
振り返るとラウルが立っていた。
「ケイ、ティア、どうしたの?」
と訊ねたが、ティアの様子を見ればなにがあったか一目瞭然だった。
ケイはティアを抱き寄せたまま、
「どこに行っていた」
と言って拳を握りしめた。
自分達はティアの護衛のはずだ。
そのティアを一人にしてこんな目に遭わせてしまった。
こみあげてくる怒りに我を忘れそうになる。
「ごめん、ミールがいたから……」
「……そうか」
ケイはなんとか怒りを抑えようとした。
ミールがいたのなら偵察に行っていながら見逃してしまったケイにも責任はある。
「とにかくここを離れよう」
「……たい」
ティアが囁くように何か言った。
「え?」
「身体、洗いたい」
確かに、身体中に血などが付いている上に服も破れている。
本来なら一刻も早く離れる必要があるのだが、ショックを受けているティアの願いをむげに断ることもできなかった。
よほどの大部隊が来ない限りケイとラウルの二人なら対応できるだろう。
ティアは水浴びをして着替えをすると樹の影から出てきた。
「ティア……、その……、ホントにごめん」
ラウルは頭を下げた。
「気にしないで。何もなかったんだから」
ティアは無理に笑顔を作って言った。
ミールがまたやってくるかもしれないので三人は急ぎ足でその場を離れた。
川沿いを遡り、渡れる浅瀬を見つけると対岸に渡ってまた川を下った。
シーサイドベルトに戻り、しばらく南下したところで遠くに集団を見つけた。
集団は森の手前にいて、そばに地下鉄への入り口があった。
屋根は崩れ、柱は折れていたが何とか中へ入り込めそうだった。
ミールさえいなければ、だが。
あれがミールかどうかはまだ分からないが。
三人はその場で伏せると様子を窺った。
「あそこが入り口なんだが……」
「どうする? いなくなるのを待つ?」
ラウルの言葉に夢の中で聞いた声を思い出した。
〝時間がない〟
ただでさえエビルプラントのおかげで数日を無駄にした。
これ以上待ってはいられない。
「ここで待ってろ。俺が連中を引きつける」
「ケイ!」
ティアの制止の声を無視し腰を低くして草むらを進んだ。
大きく回り込んで森の中に入ると樹に隠れて集団を見た。
やはりミールだった。六人いる。
ケイは樹の陰からミールを狙撃した。
即座にミールが反撃してきた。
ケイは樹に隠れた。
ミールが回り込んでこようとしているのを目の隅でとらえた。
ケイは森の奥へと走った。
ミールが追いかけてくる。
時折振り返って銃を撃つと、また樹に隠れながら森の中を走った。
すぐ近くの樹にミールの銃弾が当たって樹屑を散らす。
大きな樹の陰に隠れると追いついてきたミールを撃った。
これで二人目。
回り込まれるのを警戒して、また走り出すと銃弾が耳のそばをかすめた。
近くの樹を回り込んで三人目を撃った。
残り三人。
ケイはこの近くにミールの基地がなかったか思い出そうとしながら走った。
銃弾が右腕をかすめる。
狙いをつけないまま右の方を撃った。
近くの樹の陰に入る。
ポケットを探ると予備の弾倉がなかった。
どこかで落としたらしい。弾薬がなくなる前に片づけなければ。
かすかに動いた樹の影を狙って撃つ。
低いうめき声が聞こえた。殺せなかったようだ。
ケイは背後に気配を感じて振り返ると撃った。
ミールが倒れる。殺せたかどうかは分からないが起きあがる気配はない。
あと一人。
ケイはジグザグに走りながら元来た道を戻った。頬を銃弾がかすめる。
銃弾が来た方向めがけて撃った。
敵が樹の陰に隠れたのを見て、樹を回り込んだ。
相手が銃を構えるより先に撃つ。
ミールは腹を押さえながら倒れた。
これで最後だが、とどめを刺せたか分からない敵が何人かいた。
ケイは目の前に倒れてる敵の頭部を撃ってとどめを刺すと来た道を戻った。
まだ息があった敵の息の根を止めると、ティア達の待つ場所へと戻った。
「ケイ!」
ティアが抱きついてきた。
ケイは一瞬抱きしめそうになった。
「良かった! 無事で……」
「ティア……。ラウル」
ティアはラウルに気付くと慌てて離れた。
ケイはティアが自分を心配してくれたのが嬉しいと言う思いと、ラウルに申し訳ない思いが葛藤していた。
「水を汲んでくるわね」
ティアは涙を拭いながらそう言うと、ケイが止める間もなくは行ってしまった。
「ラウル……」
ケイは後ろめたい思いでラウルを見た。
「僕に気を遣わなくていいよ」
「しかし……」
先にティアを好きになったのはラウルの方だ。
「選ぶのはティアなんだから。仕方ないよ。それより、ティアを泣かせたら許さないからね」
ラウルが冗談っぽい口調で言った。
「分かってる」
しばらくしてティアが戻ってきた。
手ぶらだった。当然だ。
水を汲めるようなものは何も持っていかなかったのだから。
「じゃ、行こうか」
ラウルはそう言うと先に立って歩き出した。
ケイはティアと目を合わせられないまま、ラウルに続いて歩き出した。
ティアが後からついてくる足音が聞こえた。




