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Starlit 1996 - 生命の降る惑星 -  作者: 月夜野 すみれ


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第三十話

 二日後、ケイはようやく起きられるようになった。

 まだ少し気怠(けだる)い感じは残っているがもう大丈夫だ。


「ね、ケイ、うわごとで何度も『急がなきゃ』って言ってたけど、あれ、どういう意味?」

 ラウルの問いに、ケイはうなされてる間に見た夢を思い出した。


「よく分からない。多分、エビルプラントに関係あるんだと思うんだが……」

「エビルプラント?」

 ラウルは訳が分からないという顔で言った。


「そういえば、出かけるときは元気だったのに帰ってきたらいきなり倒れたわよね」

「そうだったね」

 ティアの言葉にラウルが頷く。


「緑地帯の端に行った? どこかで毒を浴びたんじゃない? 手もただれてたし。だから毒消しを飲ませたんだけど」

 ティアの言葉で思い出した。


「エビルプラントが草むらに生えてたんだ」

 ケイが答えた。


「それどういう意味!?」

 ティアが勢い込んで身を乗り出す。


 ケイは偵察中にあったことを話した。


「フィトンチッドに耐性がある株が出来たの!?」

「そうらしい。見つけたのは一株だけで、それは始末したが……」

「エビルプラントが緑地帯に進出してきたら大変なことになるわ」

 ティアが深刻な表情を浮かべる。


「一刻も早く研究所に行った方が良さそうだね」

 しかし和実の記憶にある限りでは研究所でもエビルプラントを全滅させる事は出来なかった。


 和実の記憶を抽出した後に有効な手段が見つかった可能性もなくはないが、それは考えづらかった。

 もし見つけていたのなら今頃エビルプラントがこんなに繁殖しているわけがない。


 ケイとしては一刻も早く研究所に行きたかったのだが、ティアは念のためあと数日は寝ているようにと言ってきかなかった。

 ケイは仕方なく二日ほど寝ていた。


 三日目、ケイは起き出すと偵察へ出る支度をした。


「ケイ! まだ起きちゃダメよ!」

 ティアが慌てて止めようとした。


「これ以上寝ていたら身体がなまる」

 ケイが言った。

「何言ってんのよ! 死ぬほど心配させておいて!」


「ラウル、後は頼む。偵察に行ってくる」

「ケイ!」

「ティア、ケイは言い出したら聞かないから……」


 ティアと、彼女をなだめるラウルを残してケイは偵察に出かけた。


 久々の外の空気を吸いながらケイは辺りの様子を探った。

 遠くの方に小さな影がいくつか見える。

 ケイは腰を落として草陰に隠れた。


 近くに村はない。

 と言うことはミールの偵察隊か盗賊だろう。

 何らかの理由で旅をしている集団ということも考えられるが、可能性は低い。


 姿を隠せる木立はないから、これ以上近づけば気付かれる。

 ケイはいったん備蓄庫に引き返した。


「どうだった?」

 戻ってきたケイを見てラウルが訊ねてきた。

「遠くに集団がいる。近くまでいけなかったんでミールかどうかは分からなかったが」

「じゃあ、もうしばらくここにいた方がいいね」

 ラウルが言った。


「だったらケイは寝て。まだ完治したわけじゃないんだから無理しちゃダメよ」

 ティアはケイを押し倒すようにして寝かしつけた。


 外に出られるようになるまではこの調子で病人扱いされるに違いない。


 早くあの集団がいなくなってくれればいいが……。


  * *


 ゼピュイルで新型爆弾が使われた。

 そのニュースは、あっという間に研究所内に広まった。

 所員は固唾をのんでニュースの中継を見守ったが、見るべきものは何もないというのが実情だった。


 新型爆弾は破壊力はあるが有害物質を出さないクリーンな爆弾と言われていた。

 しかしクリーンだろうがダーティだろうが爆弾は爆弾だ。大勢の人が死ぬことにかわりはない。


 今までは、どんなに戦局が拡大しても大規模な破壊兵器は使われなかった。

 使ってしまえば報復合戦であっという間に惑星全域が焦土と化すからだ。


 新型爆弾は五十キロ四方を吹き飛ばし巨大なクレーターを作った。

 残っているものは何もない。


 ニュースキャスターは見渡す限り何もないところで爆弾の威力について語っていた。

 有害物質がないことを示すためだろう、ニュースキャスターはクレーターの真ん中でしゃべっている。


 爆弾が落ちたところにはジムの家もあった。

 ジムの家族が疎開していなければ爆弾で吹き飛ばされたことになる。


 戦争中で、毎日死者が多数出ている状況の中での出来事だったから爆弾でどれだけ犠牲になったのか、誰が死亡しのか、正確なところは分からなかった。


 皆、ジムに「家族はきっと疎開してるよ」と慰めたが、ゼピュイルに疎開できるような場所などなかったことを知らないものはいなかった。


 ジムは研究どころではなくなった。

 しかし出来ることは何もなかった。

 家族が爆弾の犠牲になったのかどうかさえ知るすべはなかったのだ。


 誰もがジムに同情しているものの、家族を国に置いてきているのは皆同じだった。

 何より、このメディウスもいつまで戦渦に巻き込まれずにいられるか――。


 和実と一花の結婚は、こんな時期にあって数少ない明るい話題として受け止められた。

 しかし結局パーティは開かなかった。


 こんな状況でもジムは毎日研究所に出てきて研究を続けていた。

 目の隈は濃くなっていき、ひげはもう何日も剃ってない。頬もこけて憔悴しきっているのが分かる。


 ジムの家族の安否は相変わらず分からないままだった。

 和実は一度、ジムが泣いているのを見てしまった。

 元気づけようにも言葉が出てこなかった。


 なんて言えばいい?

 戦争が終われば会える、か?


 戦火は拡大する一方で終息の兆しさえ見えないのに。


 俺の祖国も戦場で家族の消息が分からない、か?

 だからなんだ?


 同じ境遇の人間がいれば気が休まる類の心痛ではない。

 和実もジムのことは気にかけていた。


 しかし実質的には何も出来ないし和実の家族も戦場にいる。

 だからスパイド博士が度々ジムに声をかけているのを見ても慰めているのだろう、くらいにしか思わなかった。

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