第二十六話
村へ行くと村長は土下座せんばかりにしてティアにウィリディスの一件を謝った。
「一部の心ないもののために、ティア様には大変ご迷惑をおかけしました」
「気にしないでください。無事だったんですから」
ティアがそう言っても村長はしきりに頭を下げていた。
「実は今日はお願いがあってきたんですけど……」
ティアは母娘を紹介した。
「この二人は南の村から来たんですけど、この村においてもらえないでしょうか」
「何か事情でも?」
村長が訊ねた。
「えっと……」
「旦那が流行病で死んだのを、旦那の家族が彼女の看病の仕方が悪かったせいにして村から追い出したんだそうだ」
ケイはさらっと出任せを言った。
「それは気の毒な。分かりました。この村で引き取りましょう。うちは今、工事中で間借りしとるんですが、なに、二人くらい増えても大丈夫です」
村長は快く引き受けてくれた。
理由を聞いたことに他意はなかったようだ。
「家をどうかされたんですか?」
ティアが訊ねた。
「火事に遭いましてな。でも、いただいた薬だけはもって逃げましたのでご安心ください」
村長が何でもないというように手を振る。
「そうですか。それじゃあ、お願いしますね」
ティアはそう言って村長に母娘を託した。
「もう行ってしまわれるんですか?」
「ええ。急ぎますので」
ティアはそう言うとケイ達と共に村の出口に向かった。
村から少し離れたところでラウルが足を止めた。
「あ、これ渡すの忘れてた」
ラウルが言った。
「なにを?」
「木彫りの犬。あの女の子にあげようと思って彫ってたんだ。渡してくるからちょっと待ってて」
ラウルはそう言うと村へ駆けだしていった。
「行っちゃった」
ティアはラウルの後ろ姿を見ながらそう言うとケイの方に向き直った。
「さっきの、よくあんな作り話がすぐに出てきたわね」
ティアが呆れているような、面白がっているような表情で言った。
「昔、祖父と旅をしていた頃、ホントにそう言う女性に会ったんだ」
「そうだったの」
ティアがそう言ったとき数人の青年がティアの後ろに立ち止まった。
村から出てくるときから見ていたが村人だと思って警戒していなかった。
青年の一人が後ろに隠していた棒を振り上げるとティアに向かって振り下ろした。
ケイはとっさにティアをかばって抱き寄せた。
肩に強い衝撃を受けティアを抱いたまま地面に倒れた。
それが合図となって青年達が棒で殴ったり蹴ったりしてきた。
「なにをするの!」
「お前が村に来たせいで、村長の家はウィリディスに焼かれたんだ」
ケイはティアの上に覆い被さって青年達の暴行に耐えた。
何度も棒が振り下ろされ、蹴り飛ばされた。その度に身体に痛みが走る。
「ケイ、どいて! 私のせいなんだから私が……」
「大丈夫だ。これが俺の役目なんだから気にするな」
「でも! ケイが……!」
ティアは涙声だった。
同じところを何度も殴られ、身体を走る痛みがだんだんひどくなっていく。
ケイの身体からはみ出している部分を殴られるのか、ティアは時々押し殺したうめき声を上げていた。
痛みがひどくなり意識を失いかけた頃、
「なにをしている!」
村長の怒鳴り声が響いた。
「ティア様、ご無事ですか?」
ようやく暴行がやんだのでケイはなんとか身体を起こした。
ティアが跳ね起きてケイの顔を覗き込む。
「ケイ、大丈夫?」
ティアは涙を浮かべていた。
「なんとかね」
ケイはティアを安心させるためになんとか笑みを浮かべてみせた。
「ホントに申し訳ありませんでした。お前達も謝らないか!」
村長が繰り返し頭を下げながら青年達を叱り付けた。
「しかし、この女の……」
「ティア様だ!」
村長が怒鳴る。
「ティア……様のせいでウィリディスに……」
「不作のときウィリディスから借りた金を返すのに一体何年かかったか、もう忘れたのか!」
長老は青年達を怒鳴りつけるとティアに再び頭を下げた。
「申し訳ありません。こいつらはまだ幼かったから、大人達がどれだけ苦労したか知らないんです」
村長が必死で謝る。
「詫びはもういい。あんたの村にはもう二度と行かない。ウィリディスから高い種を買うんだな」
「ケイ!」
ティアは窘めるように言ったが、言われなくても二度と来ないだろう。
いつウィリディスに密告されるか分からない村になどいられるわけがない。
「大丈夫ですよ。また来ますから」
ティアは泣きながらも無理に笑みを浮かべて言った。
「…………」
ケイはティアの人の良さに呆れた。
まぁ、不作にあえいでティアの有難味が分かったら、また来てもいいだろう。
「どうか村に来て傷の手当てを……」
「いい」
ケイが素っ気なく断った時、ラウルが戻ってきた。
「ケイ、ティア、どうしたの!」
ラウルが驚いたように言った。
「訳はあとで話す。それより早くここを離れよう。すまんが肩を貸してくれ」
ケイはラウルに頼んだ。
「分かった」
ラウルの肩を借りて立ち上がると、ティアが反対側に回って支えてくれた。
ティアはまだ泣いていた。




