第二十五話
ケイは樹にもたれ、ラウルは倒木に座っていた。
「その……えっと……」
返事をしない母娘にティアは困ったような表情をしていた。
「あの、どこへ行こうとしてたんですか? 送りますよ」
ティアの言葉にケイは顔をしかめた。
ティアはもうお荷物ではない。持ちつ持たれつだ。
だが、この母娘は確実にお荷物だ。
とはいえティアの性格からして放っておくことは出来ないだろう。
「あのぉ……」
ティアは助けを求めるようにケイ達の方へ目を向けてきた。
母親はしばらくティアを窺うように見ていた。
それから、おずおずと、
「もしかして村へいらしていたティア様ですか?」
と言った。
「そうです」
ティアが答える。
母親はようやく安心した表情になった。
ケイはこの親子と会ったことがあったか思い出そうとしていた。
今は髪は乱れ、泥だらけで服が破れているから、それを頭の中で修正してみた。
会ったことがあるような、ないような……。
滞在していた村の人間ではない。
ティアがアドバイスをするために行っていた村の人間のことは余りよく覚えていない。
「行く当てはありません」
母親が答える。
「じゃあ、こんなところで何をしてたんですか?」
ティアのようにあちこちで農業のアドバイスをしているとか――これは今のところティアにしか会ったことがないが――、旅芸人とか――数は少ないがいることはいる――、ケイのように追われているのでもない限り村を離れて旅をする人間は滅多にいない。
「村で作った布を売りに行っていたんです」
母親が答えた。
そう言えば村で作った物の売買で村を離れることもあるんだった。
「戻ってみたら村は焼き払われてました。村の人達は全員殺されていて……」
母親は声を詰まらせた。
ケイ達は素早く視線をかわした。
あの村だ。
「何があったのかは分かりませんが、恐ろしくなって残っていた食料を持てるだけ持ってあの村を離れました。でも、どこへ行けばいいかも分からないまま歩いているうちに盗賊に襲われて……」
母親は堰を切ったように話し出した。
「これからどうしたらいいのか……」
「それならどこかの村においてもらうしかないでしょうね。私達も一緒に行きますから頼んでみましょう」
ティアの言葉にケイは秘かにため息をついた。
こんな事になるのではないかと思っていたのだ。
「まずはあの人、旦那さんですよね? 葬ってあげないと」
ティアはそう言ってケイを見た。
ケイは面倒なことになったと思ったが仕方ない。
断ればティア一人でやろうとするだろう。
ケイとラウルはナイフで太めの枝の先を平らにし、先頭をとがらせて即席のスコップを作った。
二時間ほどかかって、ようやくなんとか男性の身体を入れられるくらい掘れた。
この程度の浅さではすぐに野犬に掘り返されてしまうだろうが、どうせ母娘への気休めのためだし、二人が再びここに来ることはないはずだから夫が野犬の餌になったことは知らずにすむだろう。
埋葬がすむと五人は交互に水浴びをすることになった。
まず母娘に入らせた。
母親にはティアが着替えを渡した。
「有難うございます。何から何まですみません」
母親は深々と頭を下げた。
「気にしないでください」
母娘が川で身体を洗っている間、ケイとラウルは背中を向けて当たりを警戒していた。
「あの母娘、どこへ連れて行くんだ?」
母娘に聞かれないように小声で訊ねた。
「少し戻ることになっちゃうけど、来る途中によった村のどこかなら置いてくれるんじゃないかしら」
ティアは自分が世話をした村なら顔が利くからなんとかなると思っているのだろう。
実際、ティアの恩恵を受けた村なら断れないだろうが……。
ケイは頭を振った。
やれやれ……。
親子と一緒に来た道を戻ってシーサイドベルトに出ると北上した。
ラウルは休むたびに樹の枝を彫っていた。
「あの子に作ってるのか?」
「うん、少しでも気が紛れればと思って」
ラウルが女の子に樹彫りのウサギを渡すと、表情は変わらなかったものの手を出して受け取った。
女の子はまだショックで口が利けなかった。
それでもウサギをためつすがめつしたあと大事そうに抱きしめた。
「ホントにあの村まで戻るのか?」
ティアは滞在していた村へ向かっていた。
もういくつかの村を通り過ぎている。
母娘には備蓄庫の存在を教えたくなかったので、ここのところずっと野宿だった。
「そこまでいかなくても大丈夫じゃない? ティアが薬おいてきてる村ならおいてくれるよ」
ここから一番近い村は……。
ケイとラウルがティアと知り合って一番最初に行った村だった。
「あの村はティアを売ったんだったな」
ケイは顔をしかめた。
もうあの村には関わりたくない。
「だからティアには負い目があるはずだよ。恩を着せるにはいいところじゃない?」
ラウルの言うことにも一理ある。
何より、これ以上北上して時間を無駄にしたくなかった。
それにケイ達が滞在していた村はこの母娘の村の近くだ。
ティアが滞在していた村を知られたくないなら顔見知りがいない離れたところにある村の方がいい。
「あなたは南の村から来たことにしてくれ。間違っても火をつけられた村から来たことは言わないように」
ケイは警告するように言った。
あの村の生き残りがいると分かればミールはこの村を襲うだろう。
たとえティアを売った村でも、そんなことをさせるわけにはいかない。




