第二十四話
「この前、夢を見た。でも肝心なことは思い出せなかった」
ケイが夢のことを思い返しながら言った。
「そう。……けど、この大陸にいるなら、このまま一周すればどこかで会えるかもしれないわよ」
「そうかもしれないな」
まだ生きていればだが。
ケイは口に出さずに付け加えた。
二人が話してるとラウルがやってくるのが見えた。
と思った瞬間姿が消えた。
慌ててそばへ行ってみると水路に落ちて倒れていた。
水路は落ち葉が大量に浮いていて一見すると普通の地面に見える。
「これ、水路? なんでこんなところに?」
ラウルはびしょぬれになった自分の身体を見下ろして言った。
「昔、ケイが掘ってたのを私達で完成させたの」
ティアが誇らしげに答える。
「ミールに追われてたのによくそんなこと出来たね」
ラウルが言った。
「追っ手は二人だったからすぐに片づいた」
「そう」
ラウルは親しげな二人の雰囲気を訝しむように見ていた。
ラウルが服を着替えると三人は再び浅瀬を探して川を遡り始めた。
* *
ゼピュイルでは毎日のように空爆が続いていて被害を受けていない地域は減る一方だった。
メディウスとゼピュイルを結ぶシャトルもずっと前に止まっていた。
ゼピュイルのネットも遮断され、完全に連絡が取れなくなった。
もはやジムに家族の安否を知る手段はなくなった。
戦火が毎日のように拡大し、巻き込まれない国が少なくなっていくにつれジムに対する同情の声は薄れてきた。
みんなジムと同様、祖国が空爆され家族の安否の確認もろくに出来ないでいた。
人のことまで心配していられなくなったのだ。
やはり、いずれメディウスも戦渦に巻き込まれるのではないか、と心配するものも多くなってきた。
ここへは疎開のために来たわけではないし、大抵の者は祖国に家族がいる。
それでも、せめてメディウスだけでも戦争と無関係でいて欲しいと思うのが人情だった。
一花がフィールドワークから帰ってきた日、和実は思いきってプロポーズした。
一花と一緒にフィールドワークに行っている科学者の一人に、すごい二枚目の男がいると気付いたからだ。
人に言ったら笑われるような理由だが勢いはついた。
一花は驚いたようだがすぐに承諾してくれた。
ただ実際結婚するとなると役所に届けを出すだけにするのか、内輪だけでもお祝いをするのか、など色々と考えなけれがならないことが出てきた。
時期が時期だけにお祝いは控えた方がいいのではないか、と言うのが二人の一致した意見だった。
しかし友人達に相談してみると内輪のパーティだけでもやるべきだという意見の方が多かった。
親友のカイトは「こんな時だからこそやるべきだ」と言った。
そして自慢の手品を披露すると言って聞かなかった。
しかし毎日隣でジムを見ている和実としては祝い事をするのは気が引けた。
ジムをパーティに呼んでも呼ばなくても無神経な気がした。
* *
ケイ達は向こう岸へ渡れる浅瀬を探していた。
もう二日も川を遡っているが、なかなか浅瀬を見つけられないでいた。
登り坂だからティアの息も上がりがちになるので平地を歩いているときより休憩が多くなった。
歩いていると道の先に人が倒れているのが見えた。
「大変!」
ティアはケイが止める間もなく駆け寄っていった。
倒れているのは大人の男だった。
うつぶせに倒れた身体の下から大量の血が流れ出していた。既に事切れている。
「どうして……」
ティアが言いかけたとき、
「そこの三人、動くな」
男の声がした。
振り返ると樹の陰から男達が数人出てきた。全員手に武器を持っている。
刃物だけなら拳銃を持っているケイの敵ではないが弓を持っているものもいるから用心した方がいいと判断した。
男達の後ろには女性と幼い女の子が怯えるように抱き合っていた。
女性は髪が乱れ服が破れていた。
明らかに盗賊だった。
「荷物とその女をおいていけばお前達は見逃してやる」
死んだ男の横で言われても説得力がない事この上ない。
横目でティアを見ると気丈にも盗賊達を睨んでいた。
ケイとラウルが自分をおいて逃げたりしないと信じているのだろう。盗賊達に負けないと言うことも。
弓を持った男はラウルを狙っていた。
ティアはラウルの前に立った。
「ティア、危ない!」
ラウルが慌ててどかせようとした。
「弓なんてそうそう当たらないわよ」
ラウルとティアがもみ合ってると、
「おい!」
盗賊の一人が二人を引き離そうと近づいた。
弓の射線上に盗賊が入る。
ケイは素早く銃を抜くと弓を持っている男を撃った。
ラウルもティアを離すと近づいてきていた男を撃ち殺す。
ティアは伏せている。
驚いた男達が慌てだした。
ケイは一瞬、逃げ出した男を撃つのをためらった。
戦意を喪失して逃げ出す人間まで撃つのは気持ちのいいものではない。
しかしラウルは躊躇せずに後ろから全員撃った。
「ケイ、あいつら生かしておいたらまたやるよ」
ラウルが言った。
今までラウルは温厚だと思っていただけに意外に冷酷な面を見て驚いた。
ティアはラウルの手を借りて起きあがると母娘のそばに行った。
「あの……」
ティアはなんと言っていいか分からないようだった。
母親は明らかに男達に乱暴されていたし、娘は暴力を目の当たりにしたことでショック状態にあった。
「どこへ行こうとしていたんですか?」
ティアが声を掛けると母娘は怯えた目をケイとラウルに向けた。
ケイとラウルが盗賊達を皆殺しにしたところを見たのだから怖がって当然だろう。
「もう大丈夫ですよ。あの二人……ケイとラウルはあなた方に危害を加えたりしません。あ、私はティアと言います」
母娘への対応は、ケイとラウルが近づくと余計怯えると判断し、ティアに任せることにして少し離れた場所に移動した。




