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Starlit 1996 - 生命の降る惑星 -  作者: 月夜野 すみれ


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第二十三話

 審判前、ハリーは軍の施設で兵器を作っていたらしい。

 ハリーのいた施設は審判でも壊れなかったらしいが、それでも審判後の惨状に心を痛めていた。


「こんな事くらいじゃ償いにならないのは分かってるけどね」

 そう言いながら黙々と植林をしていた。


 川沿いの緑地帯は川から離れるほど樹はまばらになる。

 普通、水の少ないところでは樹はまばらな方が生育しやすいように思われがちだ。


 しかし意外にも密集している方が樹は生育できるのだ。

 葉から蒸発する水分で湿度が保たれるせいだろう。

 だが、それにも限界がある。そこで水路を造ろうとしたのだ。


 水路が緑地帯の端まで引いてあれば川から離れたところまで樹を植えることが出来る。

 緑地帯の幅を一気に広げることが出来ると考えたのだ。


 ハリーがミールに殺されるまでケイは懸命に働いて水路を掘った。

 あと少しで完成と言うときにハリーが殺され、ケイは再び逃亡生活に入ったのだ。


「そっか。じゃ、森がそのことを覚えてて今回助けてくれたのね」

 ティアはそう言って微笑んだ。

 その笑顔に動悸が速くなる。


「もう追っ手はいないんでしょ。お礼に水路を完成させましょ」

 その言葉にケイはティアをその場に待たせると偵察に行った。


 辺りを見て回ったが誰もいなかった。

 ラウルも遠くまで行ってしまったのか姿が見えない。


 殺したミールも無線機は持っていなかった。

 無線機を持っているのは隊長だけだ。


 昔、水路を造るためにシャベルを置いておいた場所へ行くと()びて蜘蛛の巣がかかってはいたがまだちゃんとそこにあった。

 シャベルを持つとティアのところへ戻った。


 ラウルが来るまでの数時間、二人は水路の残りを掘った。


「ね、聞いてもいい?」

 ティアが地面を掘りながら言った。

「ん?」

「ミールのこと、ずいぶん詳しいわよね?」

「…………」


「もしかして、ミールにいたの?」

 この問いに答えたら軽蔑されるかもしれない。


 しかし嘘はつきたくなかった。


「……ああ」


 ケイの祖父が死んで途方に暮れてたときミールに拾われた。

 祖父としては死ぬ前にどこかの村にケイを預けるつもりだったようだ。

 しかし旅の途中で突然、心臓発作で倒れた。

 医者もいない森の中で、まだ七歳だったケイにはどうすることも出来なかった。


 そんなとき任務から帰る途中のミールの小隊に出会い、隊長に拾われた。

 それから五年間、厳しい戦闘訓練を受けて十二歳の時、最初の任務に()いた。


 審判前、兵器を開発していた研究者を殺す仕事だった。

 大量破壊兵器を開発していたのだから悪いやつに違いない。

 だから殺してもいい。

 そう思っていた。


 しかし、その研究者は村で農業をしながら暮らしていた。

 当然ミールの指令は村人全員の抹殺だった。


 研究者だけではなく罪もない村人まで殺すミールの考えには賛同出来ず、その夜ミールから逃げ出した。


 以来ケイもミールに追われるようになった。

 ここでハリーと植林していたのもミールから逃げ出して姿を隠していたときだった。


 ハリーはケイが水を汲みに行ってるときに殺された。

 だからミールはケイには気付かなかった。


 ハリーが殺されたのは、ハリー自身がミールの標的だったからだが、そのことでここにいられなくなったのも事実だった。


 ケイもミールに見つかる前に逃げる必要があった。

 それで水路を完成させられないままケイはこの森を離れた。


「そうだったの」

 ティアはそう言っただけで水路を掘る作業を続けた。


 嫌われただろうか。

 だが仕方がない。


 過去に罪もない人を殺したことは事実なのだ。

 そのことで嫌われても自業自得だ。

 それでもケイはティアに嫌われたくないと思った。


「……ミールの他の人達もケイみたいに考えを変えてくれればいいのにね」

 ティアはそう言うと優しく微笑んだ。


 ケイはティアに嫌われなかったと言うことが自分が考えていた以上に嬉しかったことに戸惑った。


 地中には樹の根が縦横(じゅうおう)に走っていて、土を掘るのは一苦労だった。


 数時間後、ようやく水路が完成した。


「やったわね」

 水路に水が流れ出すとティアが嬉しそうに言った。

「ああ」

 ケイも表情には出さなかったが嬉しかった。


 ハリーもあの世で喜んでくれているだろう。


「これでもっと遠くまで緑地帯が広がるわね」

 ティアはそう言うとしばらく考え込んでから、

「いつかここへ戻ってきて植林を続けられたらいいわね」

 と言った。


「ああ、そうだな」

 いつの日かティアと二人で今日のように働けたらいい。

 ケイは本気でそう思った。


 だがティアを好きらしいラウルに対して申し訳ない気もした。


 この森の果樹は色んな種類があって冬以外はほとんど何かが収穫できるようになっている。


 山菜なども採れるし温帯の中でも南の方だから暮らすにはいいところだ。

 冬もそんなに寒くはならないだろう。


 家さえあれば食料の心配をせずに暮らせるはずだ。

 多分ハリーもそう考えて色々な種類の果樹を植えたに違いない。


 ケイとティアは泥だらけになった身体を交代で川で洗って着替えた。

 それがすむと果物を摘みながらラウルが来るのを待っていた。


「ずっと考えてたんだが……」

 ケイが思案気に口を開いた。

「何を?」


「祖父が緑の魔法使いの居場所について、何か言わなかったか」

「それで?」

 ティアの問いにケイはため息をついた。

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