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Starlit 1996 - 生命の降る惑星 -  作者: 月夜野 すみれ


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第十七話

「その人も私と同じ理由で緑の魔法使いって呼ばれてて、今でも生きてるなら私と同じことしてる可能性は高いわね」

 ティアが思案しながら言った。


「そうか! ティアはそう言う人の話、聞いたことない?」

 ラウルが訊ねる。


「ごめんなさい。無いわ。でもこの大陸を全部回ったわけじゃないから……」

「そっか」

 ラウルが肩を落とした。


「私はこのラインは大体行ったことあるから、その人を捜すなら別のラインに行った方がいいと思うわ」

「ケイは? 今までどのラインを捜してたの?」

 ラウルがケイに聞いて来た。


「積極的には捜してない。ずっとこのラインにいた」

「今から北端を越えるのは難しいから南に行って赤道の向こうへ行った方がいいわね」

 その一言で、この村を出たら南へ向かうことが決まった。


 翌日からケイとラウルはルードの練習をすることになった。

 格闘技にはルールがある。

 普段、ミールを倒すときのように何でもありというわけにはいかない。


 そのためケイとラウルは刈り入れの合間に村人と練習していた。

 格闘技のルールは、蹴っていいのは肩、肘の外側、膝の外側のみ。足払いはOK。

 目つぶしをはじめとする顔面と急所への攻撃は禁止だ。


 相手が地面に倒れたら勝ちである。

 つまり足払いをかけるなどして襟元を掴み相手を引き倒すのである。


 ルールがある戦闘というのは経験がなかっただけに覚えるのに多少時間がかかった。

 純粋に力と力の戦いとなると身体が大きい方が有利である。

 そのために足払いは許されているのだろうがケイもラウルも大柄ではない。


 ラウルの身長は百八十五センチくらい、体重七十キロほど。

 多少背が高いが、体重は普通だ。


 ケイは身長百七十五センチ、体重六十キロ程度。

 特に背が高いというわけではなく太っているわけでもない。

 体重は標準体重の範囲内である。


 そのため大柄な村人と組み合うとなかなか倒せなかった。

 相手は毎回格闘技に出ているベテランだから足払いもなかなかかけられない。


 その上リングの範囲が決まっているのだからなおさら大変だ。

 相手に倒されないように移動しつつリングからも出ないように気をつけなければならない。


 互いの襟をつかみ合い、双方が相手を倒そうと力を掛け合う。

 引っ張られたとき、倒れないようにすると自然と横へ移動していってしまう。

 しかし、そのまま行ったらリングから出てしまうから、どこかで歯止めをかけなければならない。

 その辺のバランスが難しかった。


「ケイ! ラウル! 頑張って!」

 ティアは練習の度に応援してくれていた。


 練習も村人達にとっては娯楽の一つらしく、ケイ達が練習しているときは必ず集まってきた。


「いけいけ!」「そこだ! やれ!」「頑張れ!」

 格闘技の練習が始まると村人達の歓声が上がる。


 ケイは最初の頃こそ負けたりもしていたが、コツを掴むと負けなくなった。

 と言っても、やはり大柄な人が相手の時は倒すまでに時間がかかったりもした。


 ラウルの方は普段から拳銃に頼っているためケイ以上に手間取っていた。


  * *


「和実の方が出かけるなんて珍しいわね」

 一花は冗談めかしてはいたが目には不安そうな色が浮かんでいた。


 ライスは今や戦場だ。

 そんなところへ行くのだから心配にもなるだろう。


 上司も断ってもいいというような口ぶりだった。

 和実が断れば人材がいないからと言う理由でライスからの要請を拒否するつもりらしい。


 だが、いくら戦場でも土壌が有毒な化学物質で覆われていては困るだろう。

 とても見捨てることは出来なかった。


 和実の同僚達も同じ思いらしかった。

 しかし生きて帰ってはこられないかもしれない。

 そう覚悟して依頼を引き受けた。


 クィエス研究所は一応国際連盟の機関だが絶対狙われないとは限らない。

 戦場では非戦闘員が――それが子供でも――殺されているのだ。

 たとえクィエス研究所の所員でも攻撃してこないとは言い切れない。


 一花は和実を止めなかった。

 立場が逆なら一花も行ったはずだからだ。


 ジムは、

「どうせならゼピュイルの化学兵器工場が壊されれば良かったのに」

 と言った。


 彼は専門が違うから行っても何も出来ないが、クィエス研究所の人間を運ぶシャトルに便乗して帰ることが出来る。

 だが、そう都合良くはいかなかった。


 出かける日、見送りに来た一花はうつむいていた。


「メール……書いても届かないわよね」

「コンピュータくらいはあるだろうけど、ネットにつながってるかは疑問だな」

「……気をつけて」

 一花は消え入りそうな声で囁いた。


 ライスの被害はひどかった。

 事故が起きてすぐ飛んできたつもりだったが、それでも百人以上の死者が出ていた。


 化学処理はすんでいて、もう有毒ガスは出ていなかったが土壌は惨憺(さんたん)たる有様だった。


 これをもう一度、植物が生えることの出来る土壌に戻すには相当苦労するだろう。――当然時間もかかる。


 土壌に化学処理を(ほどこ)しながらも心は一花の元に飛んでいた。


 こんなにひどい状態では下手をすれば一年以上かかるかもしれない。

 案の定コンピュータはネットには接続されてなかった。

 これは通信環境がどうのと言うことではなく軍の機密漏れを防ぐためだ。


 なんの連絡も取れず、いつ帰れるかも分からない状態で一花はいつまで待っていてくれるだろうか。


 一花もフィールドワークや農業指導に出るたびにこんな思いをしていたのだろうか……。


 しかしライスでの仕事は予想外に早く終わった。

 ライスへの空爆は日増しに激しくなり、和実達の泊まっている宿舎の近くにも爆弾が落ちるようになっていた。

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