第十二話
村の食事はパンにジャガイモなどの野菜を煮たりしたものとスープなどが一、二品という質素なものだったが携帯食ばかりだったケイ達にしてみればご馳走だった。
時折だが肉も出た。
「この村は審判前から農業を営んでましたのでな」
村長が誇らしげに言った。
だから壊れて使えなくなっていたが自家発電機まであった。
トラクターなどもあったが壊れていて、整備できる人間も、壊れた部品の替えもなかったので使えない。
建物も審判前のものだから素材は宇宙空間で生成された特殊合金だった。
そのため、いったん中に入って鍵を閉めてしまえば原始的な武器しか持たない盗賊が押し入ることは出来ない。
耐熱耐火性だから火をつけられてもびくともしない。
審判前から農村だったから今となっては珍しくなった家畜もいるのだ。
もっとも、それだけに盗賊にはよく狙われるらしく、村の人間は女性も含めて皆相当強いようだ。
幸い審判前は盗賊などいなかったため武器や兵器などはなかった。
この村で使われる武器はナイフや手作りの槍や弓だった。
弓の実演をみせてもらったが、みんな的の中心に当てていた。
格闘の実演ではケイと村人が戦った。
手こずったわけではないが強かった。
「素晴らしいですな」
村長はそう言って手を叩きながらケイを褒めると、
「よろしければ、それを村のものに教えてやってくださいませんか」
と頼んできた。
「それはかまわないが……」
「それではよろしくお願いします」
というやりとりがあってケイは戦闘訓練の指導をすることになった。
「ラウル、お前にも教えてやる」
ケイがラウルに声を掛けると、
「僕もやるの?」
と嫌そうな表情を浮かべた。
「拳銃がないとき、知っておけば便利だ」
ラウルは渋々頷いた。
「私にも教えて」
ティアは自分から申し出てきた。
「分かった」
ケイは了承した。
ティアも覚えておいて損はないだろう。
食事が終わるとお茶が出た。
「お茶が飲めるのも有難いよね」
備蓄庫には茶葉などの嗜好品はない。
このお茶もこの村で作ったものだ。
今この村に嗜好品である茶葉の種をウィリディスから買うゆとりはない。
これはまだティアの両親が生きていた頃、譲られた種を大事に育て、増やしてきたものだった。
ウィリディスに見つかると厄介なので目立たないところで育てられている。
大量にあるわけではないから貴重品である。
それを毎日出してくれるのだからティアは相当大事な賓客と言うことになる。
米があれば米も出してくれたかもしれない。
農家の朝は早い。
ケイ達も他の村人同様、夜明けには畑に立っていた。
「ケイ! ティア! こっちにおいでよ!」
ケイが畑に向かおうとしていると、ラウルが畜舎から呼びかけてきた。
ケイとティアは顔を見合わせると、ラウルのいるところへ向かった。
「どうしたの?」
「牛乳絞るところ、見せてくれるって」
ラウルが言った。
「ホント!?」
ティアは嬉しそうにラウルの横に並んだ。
ケイも二人の隣に立つ。
確かに家畜は珍しいから牛乳を搾るところなど滅多に見られない。
三人が真剣な面持ちで眺めていると、
「やってみますか?」
と村の女性が言った。
ケイ達は顔を見合わせると、交代でやらせてもらうことにした。
まずティアがやることになった。
ティアは上手くはないが、なんとか牛乳を搾っている。
「家畜がいる村で何度かやらせてもらったことがあるの」
次にラウル、ケイの順番でやったが二人とも一滴も出なかった上に危うく牛に蹴られそうになった。
「これって結構難しいわよね」
ティアは真面目な顔でそう慰めてくれたが村の女性達は笑っていた。
牛乳を搾っているところを見ていると足に仔牛が頭を押しつけてきた。
「餌をやってみますか?」
女性はそう言うとケイ達の手に餌を握らせてくれた。
ケイが仔牛に餌を差し出すと、仔牛はケイの手ごと餌を口に入れた。
「手を食われた!」
ケイは慌てて手を引いた。
ケイの慌てぶりに周りの人達が大笑いした。
「ケイ、大げさだよ」
ラウルがそう言って仔牛に餌を差し出すと、ラウルも手を食われた。
「うわ!」
ラウルが慌てて仔牛から離れる。
村の女性達は爆笑した。
「噛まれたよ! 牛って人の手も食べるの!?」
ラウルの言葉に女性達は腹を抱えて笑った。
ミールはケイ達が村にいるとは思わなかったのか襲撃はなかった。
それをいうならウィリディスもここは首尾範囲外だったのか、単に密告するやつがいなかっただけなのか、ティアを捕まえに来なかったが。
ミールの偵察隊は村のそばを通っているのかもしれないが村の中まで調べようとは思っていないようだ。
苗床で育った苗を畑に植えると、ほぼ毎日のように雑草取りをするようになった。
水も毎日汲んできて、ティアが土の状態を見ながら撒く量を調節している。
「雨さえ降れば、こんな手間はいらないんですがなぁ」
村長が呟くように言った。
ケイ達にとって雨というのは話にしか聞いたことのないものだから水やりをするというのは当たり前のことだが、審判前から生きていて雨を知っている人にとっては毎日水くみをしなければならないというのは歯がゆいようだ。
確かに、この水やりをしなくてすむなら雨というのは有難い。
審判後、雨季が無くなったため、ほぼ毎日晴天だった。




