グラウンドを走る少女
教室の窓から外を眺めると一人の女の子がグラウンドを走っていた。彼女を見かけたのはこれで何度目だろう?いつも彼女はグラウンドを走っている。恐らく彼女は陸上部だろう。大会でも近いのか毎日走るなんて凄いと思っていた。他の部活仲間はいなくて彼女一人だけだった。
ある日、クラスメートに彼女の事を話してみた。しかし、クラスメートたちは誰も彼女を知らないという。呆気に取られて、「何言ってんの?だって毎日グラウンドを走ってる女の人いるじゃん!」と訴えたが知らないとアッサリ返された。みんなしてボクをからかっているのだと思った。
家でお母さんにこの事を話した。すると「それはおかしい話だわ」と同意してくれた。ボクは「でしょ?みんなしてボクをからかってるんだよ」と不満を漏らした。お母さんは学生時代によく一人でグランウドを走っていたという。だから彼女の気持ちが理解出来るらしい。お母さんは彼女に懐かしさを覚えた様だった。後日、ボクはクラスメートにこの話をした。するとみんな顔を下に向けて悲しい顔をした。「みんなしてボクをからかっているの?」と真剣に不満をぶつけてみた。すると、
a. クラスメートの一人が答えた。そのグラウンドで走っている陸上部の人は部活中に熱中症で倒れて亡くなったんだよ。
b. クラスメートの一人が言った。「お前からかってるのか?お前のお母さん、去年交通事故で亡くなったじゃん」
ボクは魂が抜ける脱力感を隠せなかった。