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80. マイルズが持って帰った情報

 マイルズは一路、ファルハナに向かって愛馬ノーラを飛ばした。


 ノーラの状態を注意深く見ながら、常歩(なみあし)より少し早めに彼女を走らせた。

 一晩野営して、ノーラを回復させると、朝早くから北に急いだ。ちょうど、リーチェが目前に迫る街道で、徒歩のシャヒードたち六人に追いついた。


「マイルズ! 無事だったか!」


 普段それほど感情を出さないシャヒードの顔がほころんだ。マイルズはそれを見て、彼がどれほど自分を単独で南に遣ることに心配していたかを理解した。


「シャヒード殿、俺はそんなにヤワじゃねぇってんですよ」


「いや、何にしてもよかった。それで?」


 マイルズは、ノオルズ公爵が健在で、兵を纏めていること、その軍は逆らうラウフの兵たちを皆殺しにしたこと、そして、何よりも彼らの目的地はファルハナであることを告げた。


 シャヒードにとっては二重の衝撃だった。故郷ラウフの街はカルデナスの情報では大変な状況だが、被害は軽微と安心していたところに、ノオルズ公爵の軍が襲ったとのことが一つ目。それに加えて、今、自分が仕えるラオ男爵にとって、命に次いで大切な街、ファルハナにそんなノオルズ公爵軍がやってくるということが二つ目の衝撃だった。


 シャヒードは、しばらく考えることすらできず、唖然としていたが、なんとか考えを纏めた。


「マイルズ、頼む。急いでその情報をラオ男爵に」


「ああ、分かっている。シャヒード殿たちを置いて行くことになるが、なによりもこの情報をラオ男爵に出来るだけ早く届けないとな」


「頼んだぞ!」


 邂逅を喜ぶ時間もなく、マイルズはシャヒード、ファウラー、スィニード、ロッティ、それにカルデナスとチャゴを置いて、ノーラに気合を入れなおした。


「ハッ!」


 ノーラは大好きなマイルズのために、口から泡を吹きながらも必死に駆けた。



 ◇



 ジンとマルティナが到着した翌々日の早朝にマイルズはファルハナに到着した。

 そんなに早くマイルズが到着するとは思っていなかったバルタザールだったが、急を要する事態だと察して、マイルズにそのまま馬で目抜き通りを駆け上がってくれと頼んだ。


 マイルズは頷くと南大門から一直線に領主館に向けてノーラを走らせた。


 勢いよく走って来る騎馬が領主館の門にたどり着こうとすると、元々冒険者ギルドの衛兵だったアメリアとバーレットが領主館の門番になっていて、彼らは焦りながらも迎撃態勢を取った。


「アメリア! バーレット!」


 マイルズがノーラを駆りながら大声で呼ばわると、アメリアとバーレットはようやく気が付いた。


「マイルズ!」


「通してくれ!」


「ああ、事情は知らんが、急いでいるんだな?」


「ああ、ノーラを頼む。まずは水だ、それから飼い葉(かいば)も頼む!」


 そう言って、門の前で下馬しつつ、手綱(たづな)をバーレットに渡すと、マイルズは急ぎ足で領主館の門をくぐって行く。バーレットは馬の名前に驚きつつも、それに反応するのは今じゃない、とばかりに手綱を預かると、「男爵は執務室だ」とマイルズに告げた。


 マイルズはそれに頷きつつ、スタスタと領主館に入って行った。



 ◇



「マイルズです!」


 マイルズは執務室の前で大声で自分の名前を告げたが、ドアの向こうの主、ラオ男爵もさすがにそれに対して「声が大きい!」とは叱責しなかった。その代わりにマイルズに負けないほど大きな声で「入れ!」と命じた。


 ドアを押し開けると、マイルズは何の挨拶もなく、ラオ男爵の執務机の前まで来ると、報告を始めた。


「まず、初めに、一番重要な件を言います。来るのはノオルズ公爵軍。その主力は王の近衛兵団です。総数約二千人」


 ラオ男爵の最初の反応はノオルズ公爵に関することだった。


「ご健在であったか……」


「はい。アジィスという近衛兵団長が軍勢を纏めて、北上しながら各地で略奪……いや、徴発を繰り返しながら、軍勢を整えて早くてあと六日ほどでファルハナに到着します」


「目的地はここで間違いないのか?」


「ええ。残念ながら、そうです」


「だが、これまで放置していたファルハナを帝国から守ろうということであるのなら、それはむしろ歓迎すべきことではないか?」


「……その、ラオ様、私は平民です。平民の感覚で言わせてもらってもいいでしょうか?」


「ああ、貴族、平民、その違いを取り上げても、今、それらは何の役にも立たぬ。お前の考えを述べよ」


「あいつらは単にドでかいフィンドレイです。道中でラウフが徴発に応じなかったとのことで、ラウフ兵は皆殺しにあったそうです。それ以上の説明は必要ですか?」


「……わかった。マイルズ、休め。ここからは私の領分だ」


「ラオ様、最後に一つ。あの連中がこのアンダロスを治めることになれば、俺は身軽な冒険者ですから、どっかに行きますよ」


「もう、いい、マイルズ、分かった。今日は疲れているだろう。休め」


「……出過ぎたことを言いました。でも、ラオ様、俺は間違ったことは言っていません。これだけはどうか、どうか俺を信じてください」


「うむ……行け」


 マイルズは「はい」と返事をして、行きかけてから、ラオ男爵に問うた。


「……ジンは? あとマルティナとかいう魔導士も一緒だったと思いますが?」


「迎賓館に行けば分かる。ジンにもその情報を伝えてやれ」


「はい!」


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