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6. 二年目の誤解

「なぁ、ニケ。ツツが魔の森を渡るとして、魔物にならない方法はあるのか?」


 ジンは朝食を食べつつ、可能性の一つとしてそれが知りたかった。


 鹿肉のストックがかなりダブついていたので、もうかれこれ一週間くらいひたすら鹿肉を食べている二人だった。


 鹿肉はソテーにするとうまい。相変わらず調味料と言えば塩と香草だ。

 醤油があれば、といつも思うジンだが、望むべくもない。


 鹿肉をむしゃむしゃと噛みつくしてから飲み込むと、ニケは答えた。


「ないよ」


「では、アスカの人々に会うのは俺一人で、ツツはここに留守番でいいんじゃないのか?その〈役目〉とやらを果たすときに俺がツツを迎えに帰ってくるから」


「それはダメだよ。〈役目〉は、その、これと言って決まったものじゃないんだから」


「は? なんだそれは? 役目っていうのは何か決まった目的のために決まった任務をするってことだろう?……禅問答か何かか?」


「そのゼンモンドーというのはよくわからないけど、目的は『世界の歪みを直す』と決まっているよ。その歪みが何でどこにあって、何をしたら直せるのか、これは誰にも分からない。だからジンとツツ、それにもちろん私もジンと一緒に行くんだよ」


「いやいやいや、じゃ、魔の森を超えられないじゃないか?越えなければアスカの人々と会えない。会えなければ何も始まらない」


「ジンはさぁ、なんでアスカの人々にこだわるの?」


「そりゃ、地元の人と会ってだな、それで情報を得るってのは基本じゃないのか?」


「地元って」


 ニケはクスクスと笑った。


「何が可笑しい? 地元って言葉が可笑しければ、この世界の人々だ」


「この世界にはアスカの人以外にもいっぱい人がいるよ?」


「はぁ~!? なんだその話は! 聞いてない!」


「アスカは私たちの国、というか領域だよ。人間の言葉だと獣人世界」


 ジンは驚くというより呆けてしまった。


「へ? そうなのか? ニケ、じゃ確認するけど、俺みたいな人間が別の場所にいっぱいいるってことでいいのか?」


「そうだよ」


 そんな当たり前のことをいまさら聞くジンに呆れて、ニケは言外にそのニュアンスを入れて、応えた。


「『そうだよ』じゃなかろう!俺はずーっと悩んでたというのに」


「魔の森はね、人間世界と獣人世界を縦に真っ二つに割る壁のようなものだよ。

 だから、人間は無理やり魔の森を渡った人間たちが魔物になって獣人になった、なんて話を信じているバカな連中もいるくらい」


「……そうじゃないのか?」


「なに! ジンは私が魔物だっていうの!?」


「まさか! ニケみたいなかわいい魔物はみたことがないからな」


 消え入るような声でごまかすジンだったが、二人の会話は明後日の方向に進んでしまっていて、それに気づいたニケは手直にあった果実水でテーブルにおおまかな地図を書き出した。


「ま、いいわ。要するにこうなっているのよ」


 大きな丸は大陸。何大陸、とかいう解説はない。

 その丸の真ん中に縦に一本、線を描いた。


「で、これが魔の森」


「うんうん」


「で、私たちはいまここ」


 そう言いながら、さっき描いた魔の森のすぐそばの右――多分東なのだろう――に点を打った。


「魔の森のすぐ右、つまり私たちがいる側が人間世界」


「つまり、人間に会うだけなら魔の森は越えなくていい、ってことであってるか?」


「あってる」


 図を描きながら、視線だけ上目がちにジンに戻して応えた。


「で、こっち側、西側ね。こっちがアスカ。人間が言う獣人世界。私のふるさと」


 ニケの書いた地図をしばらく眺めてから、ジンはニケを見つめた。


「ニケは人間世界に行けるのか? ひどい目にあったりしないのか?」


「確かに差別はひどい。ううん、ひどい……と聞いた。人間は時々アスカにもやって来るけど、ひどいやつもいれば、良いやつもいるから、本当に私が街に行ったらどうなるのか、これは行ってみないことにはわからない」


「なに、そういう感じなら大丈夫だ。俺がいるだろう」


「ジン!」


 ニケの顔がパッと明るくなるのだった。


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