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異空の侍 ~転移した会津侍の異世界冒険譚「絶対に会津に帰る!」~  作者: 大倉小次郎
ファルハナの街-ミニエー銃 前編
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46. それぞれの役割

 マイルズは騎馬でヤダフのところに赴いて、追加の弾丸について急遽の依頼をした。


 ヤダフもフィンドレイ将軍の一行が現れたことを街の人から聞いていたので、何も聞かずに「ああ、わかった、出来るだけの数を作っておこう」とだけ言って、工房に入って行った。


 マイルズはすぐに馬を返して領事館に駆け付けたが、門にいるバルタザールにすでにフィンドレイ将軍の一行はもう帰ったと告げられた。


 また馬を巡らせ、出来ただけでも弾丸をもらおう、と当初の予定通りヤダフのところに行こうとして、思いとどまった。


 いくら何でもまだ時間がほとんど立っていない。これだと一つの弾丸も出来ていないだろう。ということで一度宿のジンやニケと合流することにした。


「ジン、ニケ、あいつらもう帰ったらしいぞ」


 マイルズが部屋に入るなり、二人にそう告げる。


「そうなのか?表通りを通ったなら気づきそうなもんだが、気づかなかった」


「それは無理だよ、ジン。この部屋は一本西に入った通りに面しているからね」


 マイルズにとって、そんなことはどうでもいい、それより強度試験が出来ることを伝えなければならなかった。


「それはいい、それより、まだ昼前だ。さっと飯を掻きこんで、領主館に行けば明るいうちに強度試験が出来るぞ」


 そうして、三人はまた無理を言ってカーラに一人分多目に昼食を作ってもらい、急いで掻きこむと、厩舎に向かった。


「ツツ、元気にしてた?」


 朝早くに会ったっきり部屋に閉じこもって薬莢の材料を作っていたニケはツツに話しかける。


「ワオーン」と小さな遠吠えをして、それにこたえるツツ。


「また後でね!」


 ニケはそう言って、ツツを撫でた。

 ジンは思いついた。


「いや、ツツにも付いてきてもらおう。ニケがヤダフのところから帰るときの護衛になる」


 その間、ジンとマイルズは馬房から2頭の馬を出した。


「おお、お前さん、雌だったんだな。さっきは急ぎ過ぎて、そんなことも気が付かなかったぜ」


 マイルズが馬に話しかけた。

 この馬たちはグプタ村に襲ってきた野盗からいただいた馬たちで、ジンやニケにとっては付き合いの長い馬たちだ。


「ニケ、ツツ、行くぞ」


 馬にまたがってから、ジンはニケを呼んだ。


 ニケの背丈は、ツツより顔一つ分高い程度だ。もちろんツツが立ち上がればニケよりもずっと大きい。ツツを撫でていたニケは「うん」と返事をして馬に歩み寄り、ジンに右手を差し伸べた。

 ジンはニケの右手を左手で握ると、ひょいと馬上にまで引き上げた。

 ツツも立ち上がって、馬たちと一緒に歩み始めた。


「さ、行くか」


 領主館に行く前にヤダフのところによって、ニケを降ろす。出来上がっているだけの弾を受け取り、ニケはそれをもってツツと一緒に歩いて宿に帰る。ジンとマイルズは強度試験をしに領主館に馬で行く。そんな手はずになった。


 馬で駆けると、あっという間にヤダフの工房が近付いてくる。

 工房に近づくにつれ、多くなる人やドワーフたちが馬で駆けていくジンやマイルズ、それに並走する巨大な狼を見て、何事かと驚いていた。


「ヤダフ! できてるか?」


 馬を降りるなり、マイルズが工房に駆け込んでそう訊いた。


「出来るも何も、お前、さっき来たところじゃないか? ただまあ大急ぎであまり品質は良くないが、十個は出来てるよ」


「こんにちは。私、ニケです」


 ニケが初対面のヤダフに挨拶する。


「ああ、可愛い猫の嬢ちゃん、お前さんがジンのところの凄腕薬剤師だね?」


 ヤダフはこんな顔を持っているのかとジンもマイルズも驚く中、文字通り猫撫で声でニケに挨拶を返すヤダフ。


「凄腕かどうかわからないけど、うん、薬剤師だよ!」


「そうかそうか。おじさん頑張ってこれ作ったからね、お持ちなさい」


 ヤダフはそう言って、ゴツゴツとした手に握られた十個の弾丸をニケに渡した。


「まだまだたくさん作るからな。おじさんところの若いやつに宿に届けさせるから、嬢ちゃんはどんどん薬莢を作ってくれな」


「ニケ、気を付けてツツと一緒に帰るんだぞ。何かあればツツと領主館に来るんだ。必ずツツを連れて行くんだぞ」


 少し過保護になっているジンだが、先日のアラムの店での一件を聞いていただけに、これは仕方がないことなのだろう。


「わかった。ジンもマイルズも気を付けてね」


「「ああ」」


 二人の返事が重なった。


「じゃ、ヤダフはまだまだ弾作りを頼む。俺たちは行ってくる。強度試験の結果はちゃんと伝えに来るからな」


「俺も見たかったんだがな。仕方がない。頼んだぞ」


 異世界版ミニエー銃の第一号の製作者の一人であるヤダフとしてはその強度試験や評価試験を本当は見るべきなのだろう。けれども、ことは切迫しており、一刻の猶予もなかった。弾が必要なのだ。


 ジンとマイルズが馬を返し、駆けだした瞬間、「おい!ちょっと待て!」ヤダフが大きな声で叫ぶ。


 すでに歩き出したニケもびっくりして振り返る。


 ジンとマイルズは「どーどーどー」と言いながら、手綱を引いて馬を止める。


「おい、いったいなんだ!?」


 マイルズが責めるような口調でヤダフに訊ねる。


「強度試験で問題になるのは主に雷管なんだが、その部分の製作者は俺じゃあない。モレノだ。俺んとこの若いやつを今から走らせて、モレノを領主館に行かせる。あいつには強度試験に立ち会わせてやってくれ」


「わかった。じゃ、行くぞ」


 ジンはヤダフに大きく頷いて、もう一度馬を返す。いよいよ、ミニエー銃の実射が間近に迫っていた。


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