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異空の侍 ~転移した会津侍の異世界冒険譚「絶対に会津に帰る!」~  作者: 大倉小次郎
ファルハナの街-ミニエー銃 前編
42/177

42. フィンドレイ将軍の来訪

 実証試験版ではあるが、実銃だ。それが今、ラオ男爵の執務室にあった。


 ラオ男爵はもちろん、ドゥアルテも興奮を隠せない。

 ジンもマイルズもそんな二人を見て、笑いそうになっているのをかろうじて堪えていた。


「これが、そのテッポウという武器か」


 ラオ男爵は異世界版ミニエー銃を執務室で構えていた。もちろん、装弾はされていない。


「ええ、ただ、それは実験用ですので、まだ武器と呼ぶには少し早いかとは思います」


 ジンもこれをラオ男爵やドゥアルテに見せに来るのを楽しみにしていた。朝の報告に行くたびにひしひしとプレッシャーを感じていたので、ようやくここまで来たという報告ができるのは喜ばしいことだった。


 かといって、この実証試験版はあくまでも実証試験版だ。

 実際に「さあ、撃ってください!」と言えるような代物ではない。


「ただ、完成版も重さや形はこれとさほど変わらないのであろう?」


「ええ、それはそうなるかと」


「なら、いい。これは何と言うか、気持ちが昂るな」


「ラオ様、私にも一度……」


 ドゥアルテが早く銃に触らせろとラオ男爵にねだっている。


「ああ、そうだな、ドゥアルテ」


 ラオ男爵がそう言いつつ、銃をドゥアルテに渡そうとしたとき、執務室の扉がノックされた。


「なんだ? 入れ」


 銃はまだラオ男爵の手にあり、すぐにそれを自分の背後に隠してから、扉の向こうにそう告げた。


「フィンドレイ将軍が護衛二十名と共に南大門を入ってきた、と今しがた警らから連絡がありました」


 マイルズの代わりに冒険者ギルド経由で配属になった衛兵が駆けこんできてそう報告した。


「なに! また徴税か!?」


 ラオ男爵は驚くより怒りが先に立った。


「いえ、今日は前回の五十人とは違い、二十人ほどですから徴税ではないはずだ、との報告です」


 衛兵はそれを否定した。


「では、いったいなんだというのだ……。バルタザール、ひとまず門に戻っておれ」


「はい。では失礼いたします」


 バルタザールと呼ばれた衛兵は下がって行った。


「私もバルタザールと一緒に門に行きましょうか?」


 マイルズはもともと領主館の衛兵だ。


「いや、マイルズ、お前はジンと行動を共にしろ。ジン、テッポウをその麻布に入れておけ。そして目立たぬように領主館を出て、ひとまず宿に戻るのだ。いいか、絶対にそれをヤツに見られるではないぞ」


 ラオ男爵にとってこの銃は切り札だ。それをフィンドレイ将軍やその手勢に絶対に見せるわけにはいかない。


「かしこまりました。では、拙者は失礼いたしまする」


 ジンはそう言って、実証試験版ミニエー銃を受け取り、麻袋に入れると、マイルズと共に退室した。


 ジンとマイルズは領主館を出て、目抜き通りから一本西の道に入って、自分の宿に戻っていった。


 二人が歩く道と目抜き通りは平行に走っている。それらに対し直角に繋ぐ道が何本も走っているが、そんな道の一つに差し掛かったとき、ジンが目抜き通りの方を見るとちょうどフィンドレイ将軍の一行が領主館に向かって進んでいるのが見えた。


(あいつら、今度は何の用だ?)


 前回彼らが来た時にはニケも危うい目に遭い、ジンは〈宵闇の鹿〉でビーティも危うい目に遭うところに遭遇したのだから、今回だって何があるかわからない。


 ジンは怒りのにじむ目で通り一本隔てたところから彼らを睨んだ。


「なあ、ジン、目立っても仕方がない。早くいこうぜ」


「ああ」


 二人は宿に急いだ。


 一方、領主館の執務室ではラオ男爵に矢継ぎ早にフィンドレイ将軍一行の動向が警ら隊員たちから伝えられていた。


「ドゥアルテ、奴らどうやらここに、この領主館に向かってきているようだな」


「衛兵には護衛を三名まで通すように伝えます」


 と、ドゥアルテ。


「いや、二十人ぞろぞろ連れて入ってくるなら入ってこさせよ。どうせ、そんな体裁の悪いことはしないだろう。街の人を威圧するためだけに大勢連れて来たんだろうが虫唾が走る」


 ラオ男爵は言い捨てた。


「いいか、ドゥアルテ、奴が言うことをすべて受け入れろ。ここでわれらの意図を悟らせるな。どれだけ無礼なことを言われたとて、何も失うものはない。言わせておけばいいのだ」


「ラオ様がそうおっしゃるのであれば、私に何が申せましょう。仰せのままに」


 ドゥアルテはラオ男爵がいかにフィンドレイ将軍がもたらす数多くの問題に頭を悩ませ、眠れない夜を過ごしているかをよく知っていた。


 知っているだけに将軍を許せない気持ちは人一倍持っているが、一番苦境に立っているその本人が何を言われても耐えて見せると言っているのだ。


 ドゥアルテとしてはそれに従うまでだ。


「なら、良い」


 ラオ男爵がそう頷いたとき、執務室の扉がノックされた。


「フィンドレイ将軍がラオ男爵との面会を求めて、今、領主館の門にいます」


 ドアの向こうからバルタザールの声が聞こえた。


「バルタザール、まず、入れ」


「はい、失礼いたします。将軍の護衛の人数はいかがいたしましょうか?」


 バルタザールが部屋に入るなりラオ男爵に問うた。


「向こうは何と言っておる?」


「フィンドレイ将軍を除いて八人の入館許可を求めております」


「はっ。この狭い執務室に八人とはな。笑止千万だな。まあよい。許可せよ」


 ラオ男爵がバルタザールにそう告げると、「かしこまりました」とバルタザールは来た道を引き返して行った。


 部屋にはラオ男爵とドゥアルテだけになった。


「なあドゥアルテ。決して飲むことのできない要求があった場合でも、私はこの場では受け入れるつもりだ。問題は時限が切られたときだ。例えば、明日までに、婦女子十人をよこせ、などの要求の場合だ」


「それだと厄介になりますな」


「ああ、もちろんこれは極端な例えだ。それでももし奴がそんな要求した場合、戦端は明日にも切られることになる。その覚悟はあるか。ドゥアルテ?」


「はい。私の覚悟を今になって問われますか。ラオ様?」


「いや、余計だった。すまぬ」


 ラオ男爵は執務机に備えられた椅子に深く腰を沈める。


「ああ、来るところまで来たな。覚悟が問われるのはこの私だよ、ドゥアルテ」


 執務室の扉がまたノックされた。


「フィンドレイ将軍がお見えです」


 バルタザールはそう告げるのだった。


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