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異空の侍 ~転移した会津侍の異世界冒険譚「絶対に会津に帰る!」~  作者: 大倉小次郎
ファルハナの街-青甲冑の脅威編
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25. 異変

 その朝、ジンが領主館の警ら頓所に到着すると、何やらみんながせわしなく動き回っていた。


 ラオ男爵まで警ら隊員や冒険者に交じって忙しく動き回っていた。


 ドゥアルテがいたので、ジンは呼び止めた。


「ドゥアルテ殿。これはいったい?」


「ジン……そうだな。警らとしては今日は何も仕事がない。ここにいて、非常時に備えてくれればいい」


 いつも口数少なく、直截的に話をしてくれるはずのドゥアルテだが、どうも歯切れが悪い。


「ドゥアルテ殿、何が起こっているか拙者にも教えてくださらぬか?」


「悪いが私も行かねばならん」


 ドゥアルテはジンから逃げるようにして離れていった。


 と、そこにラオ男爵が通りかかった。


「ラオ様、ラオ様、これはいったい?」


「おお、ジン、いや、これはな、この街の定例行事ともいうべき徴税の日なのだ」


「徴税? それなら拙者も前もって聞いていて、しかるべきものではありませんか?」


「いや、その、なんだ、フィンドレイ将軍が今朝、急に南大門前に手勢を連れて現れたものでな」


 ラオ男爵もドゥアルテ同様、歯切れが悪かった。


「フィンドレイ将軍?」


「ああ、元々バーゲル辺境伯に仕えていた将軍でな、政変があった後もファルハナにほど近いシャンテレの村を拠点にしてファルハナ周辺の匪賊やら野盗を片づけてくれておるのだ」


「それでは、政変後はノオルズ公爵閣下に仕えているのですか?」


 ジンはファルハナの街は公式には今ノオルズ公爵の直轄地になっていることは知っていた。


「いや、そうではない。公爵閣下におかれてはまだ辺境の地に手が回らないようでな。フィンドレイ将軍も私同様に自主的に治安を守っているのだ」


 そう話すラオ男爵だが、なぜかその言い方は咎められて釈明しているような響きがあった。


「ああ、そうだったのですね。それで南大門があんな状態であっても、この街の中では野盗の被害がさほど起きていない、というわけだったんですね」


 ジンはグプタ村の状況を知っているがゆえに、こんなにいい加減な入街管理でもなんとか街の治安を守れている状況を初めて理解した。


「そ、そういうことだ。それでだな、ドゥアルテにも申し渡したが本日の警らは必要ない。今日は警ら隊は解散だ。フィンドレイ将軍が入街するのでな。彼らに任せる手はずだ」


「わかりました。では拙者はこのまま帰宅、ということでよろしいのですね」


「ああ、問題ない」


 ラオ男爵はジンに目を合わせずにそう告げた。

 まだ朝なのに領主館の警ら頓所を出て、ジンは帰途についた。


 ドゥアルテはここにいて非常時に備えよ、と言ったかと思えば、最高指揮官であるラオ男爵はもう帰れ、という。給料は出ているのでそこには不満はないが、どうにもジンはもやもやとした気持ちが晴れなかった。


(いったいフィンドレイ将軍とは何者なんだ。それに手勢という言い方が気になるな)


(そもそも、このファルハナにほど近い村に駐屯しているって言ってたけど、ファルハナの治安を守るならファルハナに駐屯すればいいだろう)


(南大門まで来ているって言ってたか。なんだそれは。南大門は開いているんだから、入ってきたらよさそうなものだ。まるで外から圧をかけるような動きをする)


 大通りを南に歩きながら、いろんな考え、不満、疑問が去来した。かといって、ジンは日払い労働者にすぎない。街の運営に口を挟めるわけもない。


 宿に着くと、すぐに厩舎に行ってツツに会いに行った。

 誰にも言えない不満や不安が高まったとき、ツツは最高の話し相手だった。


「ツツ、会津にいたときもそうだったが、上の考えというものは分からないものだな」


 ツツはその青い目をじっとジンに向けながら、首をかしげて「ジン、何を言っているの?」と言わんばかりだった。


「お前に言っても始まらんことはわかってるけどな。この街を守ろうとしているのは何もラオ男爵やドゥアルテ殿だけじゃない。俺だってマイルズだって考えているんだけどな。そういえば今日マイルズは見かけなかったな……」


 ツツはまた首をかしげる。ジンが言っていることは全くわからないけれど、ツツなりにジンを心配しているようだった。


「いや、お前にこんな話をしても詮無いことだった。ちょっと街を歩くか? ニケのポーションが売れてな。宿代をそんなに気にしなくてもいいようになってきた。うまい飯があればおまえにも食わせてやるぞ?」


 ジンはツツに愚痴を無理やり聞かせていることに少し罪悪感を覚え、ツツが喜ぶことをしてあげたくなった。


 黙ってお座りの姿勢で愚痴を聞いていたツツも、「飯」「食う」などのキーワードにはシャキン!と反応した。


「いいの?ほんとう?たべる!」と言わんばかりに立ち上がって、大きく尻尾を振った。


「お前は本当にどれだけ俺の話が分かってるんだろうな。しかも、使命を背負った犬だというじゃないか。いや、狼か、どっちにしてもすごいやつだ。お前は」


 ジンはツツに話しかけながら、厩舎をツツと一緒に出ていった。


 そのタイミングで、南大門をくぐって、五〇人ほどの集団が大通りに入ってきた。


(ああ、あれがフィンドレイ将軍とその手勢か)


 ジンは制服姿だ。目立たないように大通りから脇道に入った。


 脇道から振り返って大通りを見ると先頭に騎馬のフィンドレイ将軍らしき人物がいて、青っぽい意匠の揃いの甲冑を着た〈手勢〉が続いた。槍ではなく帯刀しているようだった。


(このまま領主館に向かうんだろうか)


 ジンは青甲冑の集団を眺めていた。


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