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15. 襲撃――後編

「ジューーーー!」


 柵の外にいるジンやニケにとりつく最後の一騎、十騎目を葬って、ジンは雄たけびを上げた。


「皆は!?」


 馬防柵の中、村の方を見ると、すでに激しい戦いが起こっていた。


 柵の内側から外にいる馬上の野盗を牽制するのはクオンと彼の妻であるシアだけだ。

 サミー、村長ラガバンはすでに徒歩になって侵入した四人の野盗たちと長い槍を振り回して戦っている。

 アシュレイは未だに血に濡れた短剣を震える手に持つベイロンをかばう様にしながら、必死に長槍を振り回している。

 槍が長い分、取り回しが難しい。アシュレイだけではなく皆の両腕の筋肉はもはや限界を迎え、痙攣し始めていた。


 野盗の一人が突き出した槍が、ラガバンの太ももに刺さり、ラガバンは悲鳴を上げた。これで、村に侵入した野盗四人に対して、戦力になる防衛陣はアシュレイ、サミー、の二人。


 状況が野盗側に好転し始めたことで、村内にすでに侵入している四人の野盗のうちの一人が見張り櫓から矢を射かけているリアとエノクに目を付けた。


「てめえら、今行ってやるからな!待ってろよ!」


 そう恫喝してから、櫓の基部に近づきはじめた。


「来る!エノク、登らせるな!」


 リアはそう叫び、二人で必死になって矢を放つが、真下に近づく対象にはなかなか当たらないのだ。


 アシュレイはベイロンを守ることで精一杯。サミーも眼前の敵と痙攣する己が筋肉に対応するのが精いっぱいで、わが息子とリアを守るために櫓に迫る野盗を防げないでいた。


 そんな時、柵の外から、灰色の何かがものすごい速さでまるで飛んでくるように迫ると、櫓に近づく野盗に横殴りに襲い掛かった。


 ツツだ。一瞬で野盗の喉笛を噛みちぎるとそのまま駆け抜け、今度はサミーとアシュレイに対峙する野盗の一人を太ももに噛みつき、こちらも一瞬で行動不能に陥れたのだ。


 ツツに遅れて柵に戻ってきたジンも、クオン夫妻が牽制している柵の外にいる五騎を背後から襲った。


「ジューイチー!」


 叫びながら、走って戻ってきた勢いそのまま、ジャンプして背後から野盗の背中を袈裟懸けに切り捨てた。


(十一であってたかな?)


 もう、何人切り捨てて来たか、だんだんわからなくなってきていた。


「何人目でもいい。てめえら、かかってこい!」


 別にかっこいいことを言っているのではない。ジンはとにかくこれ以上の敵を柵の中に入らせたくなかった。柵の中ではツツが大暴れし始めたが、まだ三人の野盗の戦力が残って、サミーとアシュレイを追い詰めていたのだ。


「ラガバン!」


 ニケが村の家屋の一つから飛び出てきて、ポーションの瓶を投げた。


 太ももから大量に出血しつつも意識を保っていたラガバンが目の前に投げられた瓶を拾うと口でコルク栓を抜いて、自らの太ももにポーションをかけた。


 失われた血液が戻るわけではないが、蒸気を発しながら傷口がふさがるのを確認して、自分の村を自らから救うためにふらふらになりながら立ち上がった。


 さすがのジンも振るう刀に切れがなくなってきていた。かといって、ピンチに陥っている柵の中から助けが来るわけもない。


(あと、四騎だな)


 柵の外にいる四騎もどうこの変な剣を持つ剣士と渡り合うか、考えていた……いや、本当はもう逃げ出したくなっていた。


 もともと彼らにとってこの戦いは村人を単に蹂躙するだけのことだったはずだ。それがいまや、馬を捨て柵を超えて村に侵入した連中は徐々に追い詰められていた。それにこの目の前にいる剣士とやりあっても何も得るものは何もないのだ。


 実際、二十人いたはずの野盗はすでに七人になっていた。柵の中に三人、柵の外に四人。柵をはさんで仲間の状況がお互い見て取れた。


 柵の中の三人にとって、ツツが参戦してから状況は芳しくない。すでに仲間三人に対して五人の大人、それに子供たちまで時折櫓の上から矢を射かけてくるのだ。


「ペテル、すまねえ!」


 馬上の一人が柵の中で戦う仲間に告げると、村の反対方向に馬を巡らせた。


「お、おい!」


 ペテルと呼ばれた男が騎馬で逃げだそうとする男に目を向けた瞬間、ラガバンの槍が背中から男の心臓を貫いた。


 そこからは早かった。

 柵の外の三騎も我先に、と駆け出し、村から遠ざかっていく。ジンにはそれに追撃をかける体力も速力も残っていなかった。


 最後に柵の中にいた二人はあっというまにツツとサミーに葬られてしまった。

 こうして、村は一人として欠くことなく野盗の大集団を撃退したのだった。


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