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143. 会敵

殿(しんがり)に置いたナス大隊に合流次第、三個銃騎兵大隊による連合攻撃を行う!」


 ベラスケスの命令により、一度後退を始めた全部隊は、再度少し押し上げて、ナス大隊と合流した。


 と、その時、敵陣内から発砲音が聞こえた。第一軍と第二軍の間の距離は八〇〇ミノル程もあって、さすがに鉄砲の弾は届かないはずなのにもかかわらず、だ。


「何が起きている!? ライナス!」


「はっ」


「もう一度上がって敵の状況を」


「はっ!」


 ライナスをそうとだけ復命するとすぐにミシラに跨って、飛び発った。


(状況把握となると二〇〇ミノル程度まで近づけば、何かわかるか……)


 ライナスはそう考えながら目を凝らして敵陣を見下ろした。不思議なことに、上空の敵ワイバーンたちはライナスが近づいて行っても向かってこない。


(何かおかしい。どうなっている?)


 ライナスの目に敵陣内の様子が見えてきた。


「同士討ち!?」


 ライナスは思わずそう独り言ちた。詳しい事情は分からないが、部隊の一部、いや、かなり大きな割合、およそ三割程度の軍が公然と背後を突く形で第一軍の中央部隊に向かって発砲している。第一軍の中央も鉄砲兵が応戦、上空のワイバーンは第一軍の中央部隊を支援するように、後方から襲い掛かる部隊を攻撃しているようだった。それでワイバーンたちはライナスが近付いても反応しなかったのだろう。いずれにしてもすぐに戻ってベラスケスに状況を伝えなければならない。


 ライナスは手綱回すと、第二軍に戻った。一ノルもない距離なので、竜騎士にとって、それはほんの一瞬のことだ。戻って、ベラスケスに見た状況を説明した。


 ベラスケスは考え込んだ。


(少なくともワイバーンの行動に騙しはない、と言うところか……ワイバーンに襲われている部隊が我々の味方、と考えるしかないか)


「よし、命令に変更はない! 銃騎兵隊三個大隊による突撃、離脱、銃騎兵隊離脱後、後方から魔道騎士団による攻撃で敵中央部隊を撃破、後続の歩兵隊も接敵し、残敵を制圧せよ!」


「「「「はっ!」」」」


 命令を受けた各大隊長が自分の部隊に戻って行った。


 ベラスケスは命令が各小隊にまで行き渡る時間だけ少し待ってから、剣を宙に突き上げた。


「突撃ー!」



 ◇



 銃騎兵隊に続いて、ベラスケスやジンたちのいる第二軍中央大隊も突撃し始めた。


 進むジンたちの目に野ざらしになっているアティエンザたち三名とまだ息はあるが銃弾を受けて横たわっているアティエンザたちの馬が目に入った。


 前方ではすでに戦端が切って落とされた。第二軍が誇る銃騎兵隊三千が新式銃、モレノ式を二射すると、都合六千発の銃撃がなされる。


 第一軍の鉄砲隊は二千。旧式の先込め銃だ。しかも半分ほどの鉄砲は同士討ちの状況に使用されているのか、第二軍の突撃に対しては千発ほどの弾丸が一斉射されただけだった。その一斉射に突撃する銃騎兵隊も多くがやられたが、同じ時間内に発射できる弾丸の数が圧倒的に違い過ぎた。


 見る間に第一軍中央大隊の兵が斃れて行った。


 ジンたちのいる、中央大隊には魔法騎士が含まれていた。先方の銃騎兵隊が突撃、離脱すると同時に、中央大隊も突撃を開始した。


 魔法騎士たちそれぞれは自分が得意な魔法を同時に敵中央部隊に浴びせると、空は火や雷、氷などに彩られた。


 どうしても敵が人間だと強力な魔法を使えないマルティナは極限まで散布界を広げた超広域魔法を発動した。人や魔物を焼き殺すほどの電圧はないが、人を気絶させるには十分な電圧を持つ魔法だ。およそ千人の敵がこの魔法の攻撃の影響を受けて、バタバタと倒れた。倒れずにいる者も多く見られたが、そういう者たちは電撃の苦痛にのたうち回っている。


 敵中央大隊を打ち破ると、後方で敵中央部隊を攻撃していた部隊――都合、反乱部隊、とベラスケスたちは呼称していた――その反乱部隊とベラスケスやジンたちとの距離が迫って来た。


「殿下―! ベラスケス殿下―!」


 反乱部隊の将兵から声が上がった。すぐにローデスら将兵がベラスケスの周りを固めて、ベラスケスを銃撃の危険から守りつつ、周りを警戒する体勢を取ったが、ベラスケスはそんなローデスらを押しのけ、前面に出て第一軍の反乱部隊たちに対面した。


「一体どういうことか説明せよ! それに兄上……シャイファー殿下はいずこだ!?」


 すでに第二軍の旧式銃を持つ銃歩兵隊も到着して、残敵の掃討が始まっていた。銃騎兵隊は上空のワイバーンたちに攻撃を加えていた。上空を高速で飛ぶ敵にはなかなか当たりはしないが、三千丁近い鉄砲だ。当然何発かは当たって、ワイバーンたちも数を減らしつつあった。ベラスケスはこの戦いには圧倒的に勝ちつつあったが、もちろん勝利の喜びなどと言うものは一切なかった。


「殿下、第一軍第二大隊を預かるボスティックです」


 そう名乗った軍人をベラスケスは知っていた。実直な男だと兄シャイファーから聞かされていたのだ。


「存じておる。伯爵。お前が説明してくれるのか?」


「はい。私が分かっている限り、にはなりますが。……一カ月ほど前になります。魔の森から突如沸いた空を飛ぶ人型の魔物たちと交戦しました。強力な敵で、苦戦を強いられましたが、なんとか撃退いたしました」


「空を飛ぶ人型? 余は見たことがない、というか、いったい何の話だ?」


「殿下、私はその魔物を見たことがございます。ガーゴイルとか呼ばれておりました」


 ライナスが割り込んでボスティックの説明を補足した。その補足に頷いてからボスティックは説明を続けた。


「その魔物がこの状況に関わっていると思われるのです、殿下。その魔物と交戦してから、第一軍の中で妙なことが起こり始めました。ほとんど会話をせずに共同作業に当たる将兵が増えてきたのです」


「だから、いったい何の話をしておる? と訊いておるのだ!」


 ベラスケスは訳の分からない話にイラついてしまった。


「……殿下、これを説明せずには全貌の説明はできません。続けてよろしいでしょうか?」


 ボスティックもベラスケスがイラついているのは分かっていたが、この説明を抜きには状況を理解してはもらえないと考えた。


「いや、すまぬ。ああ、続けてくれ」


「一方、今まで通り普通の将兵たちもたくさんいました。彼らは自分の知り合いの兵が急に別人になったと騒ぎ始めたのです」


「別人とは具体的にどういうことなのだ?」


「ええ、名を問われればちゃんと答えますし、記憶も持っています。しかし、私が接した『人が変わった』とされる将兵は一様に無駄なことはしゃべらないのです。そして、『人が変わった』連中同志では、会話がなくとも共同作業を行ったり、まるで意志が通じ合っているというような様子でした」


 やはりボスティックの話はベラスケスにとって知りたいことの核心を得ない。ベラスケスは別の質問をすることにした。


「……この同士討ちになったのはどういう経緯だ」


「それは中央大隊の連中のほとんどがその『人が変わった』者たちばかりだったのですが、彼らがベラスケス殿下率いる第二軍の軍使、しかも、あれはアティエンザ殿だったのではないですか?」


「……そうだ」


「誠に残念です。その第二軍の軍使、アティエンザ殿に中央大隊の鉄砲隊が発砲したからです」


 ベラスケスはボスティックの話の全貌が今一つ理解できないでいたが、少なくとも『人が変わった』者たちが敵になっているということは分かった。


「……その『人が変わった』者どもに外見上の特徴はあるか?」


「それが全く見当たりません。見た目は普通です」


「では、今、第一軍の中の生き残りにその『人が変わった』者どもが混じっていても、分からない、ということだな」


「……はい。その通りにございます」


「やっかいな……シャイファー殿下の所在は分かったか!?」


 ベラスケスは小さく呟いてから、皆に聞こえるように大声で自分の兄の所在を問うた。


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