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八月三十一日の夜に。

作者: 海凪 悠晴

2020年8月31日。同じゼミの仲良しの大学生三人組の悠也ユウヤ秀樹ヒデキ智洋トモヒロは卒業論文執筆に向けて、夏休み中ながらもゼミに出席していた。

やがて、夕方になり解放され、ファミレスに向かう三人。


※ 本作品は2020年8月31日に別のサイトで発表されたものです。

秀樹「よっしゃー、今日のゼミ終わった!」

悠也「しっかし、腹減ったよなー」

智洋「じゃあ、いつものドコス行こうぜ」

秀樹「ドコス! 賛成! ユウヤは?」

悠也「うん、ドコスでいいよ」


 秀樹と悠也と智洋、この三人は大学四年生。同じ大学の同じゼミの仲間である。卒業を控えた今、三人はそれぞれの卒業論文を執筆中である。

 夏の終わりの夕暮れどき、今日も一日ゼミで缶詰になっていたところから解放されたところ。三人でファミリーレストランに行くことになった。


秀樹「ちょ、店内BGM、これボカロ? オレこういうの苦手なんすけど」

悠也「なんだよ、ヒデは初音ミクちゃん嫌いか」

秀樹「何か合成音っていうかー、ぶっちゃけオタクくさい」

智洋「オレは別に嫌いじゃないけど。ユウヤはこういうの好きなんだよな」

悠也「うん、今日はミクちゃんの誕生日なんだよなぁ」

秀樹「てか、架空キャラの誕生日ってなんだよー。ミクなら、三月九日にしろよって思うけど」

智洋「それは、レミオロメンの……」

秀樹「でもさ、誕生日にちなんで、ずっとボカロがBGMだったりとか、マジ勘弁だから」


 そこで店内BGMが男性ボーカルの曲に切り替わる。


智洋「おお、直太朗の『夏の終わり』だ。やっぱり夏の終わりにはこれだよな」

悠也「森山直太朗、カラオケではトモの十八番だからな」

秀樹「ユウヤはボカロが十八番だもんな。ロボット人間かっての!」

悠也「とりあえず、なんか注文しようよ」

秀樹「とりあえず、ドリンクバーで」

智洋「飯食わねえの?」

秀樹「なんか、夏バテ気味でよー。食欲ねえべ」

智洋「ん? 本日限定、サラダバー31%オフだって?」

悠也「八月三十一日はやさいの日、だから、なんか……」

智洋「普段あんま野菜食わねえからな、たまにはビタミン補給しとくか?」


 とりあえず、店員さんを呼び出し。三人それぞれがドリンクバー、そしてサラダバーを揃って注文する。


智洋「しっかし、今日は勉強しているのが多いな」

秀樹「ああ、今日って八月三十一日。夏休み最後の日、だからかな」

智洋「夏休みの宿題の追い込みっすか」

悠也「(少し小声で)あれ、元店員目線から言いますとね、迷惑なんですよねぇ……」

秀樹「オレ、高校とかのとき、学習室代わりにファミレス、よく使ったけどな」

智洋「とりあえず、オレたちは夏休み返上で毎日卒論を少しずつ仕上げてる最中だな」

秀樹「大学入って一、二年のときは九月いっぱい休みだってことでこの時期はなんか余裕かましてた」

悠也「大学生になったら、夏休み長いんだぞ! みたいに」


智洋「というか、ユウヤは一、二年の頃、ここでバイトしてたよな」

悠也「そう、ひと夏中。免許取る金稼ぐためにな」

秀樹「そこで彼女と知り合ったと」

悠也「ああ、まぁ、元カノだけどな……」


 二年前、大学二年の夏。悠也はこのファミレス「ドコス」でアルバイトしながら、自動車教習所に通っていた。大学一年の夏はバイトとオタ活に明け暮れた悠也。二年目はオタ活を泣く泣く(?)切って教習所に入り、ひと夏での普通免許取得という目標を定めたのである。そのとき知り合ったのが同じ大学の一年後輩の晴奈、悠也にとっては初めての彼女となる晴奈だった。彼女は今でも悠也の「唯一の元カノ」ではある。


智洋「ああ、エミちゃんだっけ?」

悠也「ちがうよー、晴奈だよ」

秀樹「教習所も同じだったんだっけ?」

悠也「ああ、そうだったなー。昼は教習所で、夜はアルバイトで一緒だった」

秀樹「幸せだったんすねーっ!」

悠也「あの頃は……、ほんと忙しかった、けどな……」


 二年前、自動車教習所の卒業検定に合格した悠也と晴奈。そのあと、ふたりが揃って運転免許センターで免許証を交付された日がちょうどこの日、八月三十一日であった。というわけで、二年前にさかのぼる。

 二年前の八月三十一日、夕刻。


悠也「免許、ついに取れたね!」

晴奈「やったぁ! 先輩と交付日がお揃いですよ!」

悠也「平成三十年八月三十一日交付かぁ……。平成最後の夏、それも八月ラストだね」

晴奈「平成三十三年まで有効、ですって。そのとき平成終わってますよね」

悠也「あはは、三年間だからね。その間に東京オリンピックがあったりするわけか」

晴奈「ということは先輩はもう卒業しているわけかぁ」

悠也「留年さえしなければね」

晴奈「私はそのときまだ大学四年生ですよぉー」

悠也「はるちゃん、今日はお互いシフトお休みだったよね」

晴奈「それが、近藤先輩から代わって欲しいって言われてて、なので今日は二十二時までシフトです!」

悠也「うわ、コンドーの奴……。わかった、十時まで待ってるから」

晴奈「え、先輩……!?」

悠也「せっかく免許取れたんだからさ……、ふたりで打ち上げやろうよ。今夜」

晴奈「え……、ええ、いいですよ……。是非、やりましょう! 打ち上げ!」


 その夜、十時を過ぎても晴奈からの連絡を受け取らなかった悠也、であった。なにせ寝落ちしてしまっていたからである。

 気がついたら「八月三十一日の夜」は終わっていて日付上は「九月一日の未明」であった。

 午後十時過ぎに何件も晴奈からの不在着信があったにもかからわず、の失態ではあった。

 ふたりが恋人同士になるのは、それから更に数ヶ月後のはなしであった。

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