帰り道の車中
先々月にコロナに罹患した。最後のワクチン接種からしばらく空いたからか、それなりに症状が重く苦しめられた。関節や喉の痛みに頭痛。夜には体温も39℃後半まで上がり辛い夜を過ごした。症状は3日~4日程続いたところで収まり全快したが医師の指示通り追加で3日間は会社を休んだ。
私の仕事は塾講師で昼過ぎに出勤し帰りは22:00頃。夕方、夜の授業を終えて報告書を書き、教材の片付けや翌日の準備をしていると早くてもこれぐらいの時間となる。
そしてコロナ明けの最初の出勤日から奇怪な現象が起こり続けるようになる。
仕事が終わり自家用車で自宅に帰る。およそ20分程の距離なのだが、、、
道路に映る街灯の影がうねっており深い穴であるように見える
ブレーキを踏む直前だけ右足が痺れることがある
通り過ぎる瞬間にだけ視界の端にちらちらと人間のシルエットがある
赤信号であるのに、青に寄せよう(?)と紫がかった気持ちの悪い色になったりする
窓を開けていても閉めていても焼け焦げた匂いがする
後部座席から女性の「…ふっふふ…」という笑い声がする
対向車のライトで目が眩む時間が異様に長い上に後を引く
晴れているにも関わらず道路上に赤い血溜まりのような液体が見られる
交差点を通過したり速度を上げると毎回と言っていいほど鳥肌が立つ
クラクションが近くで聞こえ辺りを見回すがそれらしい車が無い
自身の息遣いが他人の息遣いのように感じられる
三日月の口が醜く歪み語りかけてくる
「前の車に突っ込め」「カーブの前にアクセルを踏め」「赤信号でも進んでしまえ」「土手の方へ急ハンドルを切れ」「死ね」
仕事終わりの車内でしか起こらない現象ではあるが、コロナ後遺症なのだろうと思う。コロナ後遺症の中に多くは無いが幻覚を見たり、周囲に何も無いのに特定の匂いを感じたりというのがあるらしい。怪現象が幽霊の存在だとは思っていない。幻覚や幻聴といった脳側が視覚や聴覚、触覚を作り出すとする方が合点がいく。しかし、なぜ仕事終わりの車中でだけ起こり続けるのかという点だけは気になっていた。
こういった事情を妻に相談したところ
「私の叔母が心霊系の事象によるヤツだったら見てあげるって言ってるよ」
という運びとなり休日に自宅にて、みてもらうことになったのだが、、、
「う~~ん…、、、これといって性質の悪い霊は憑いてないわね。いたずらするかもしれない小動物の霊は祓って、しばらく悪いのが寄り憑かなくなる儀式をやっておきましょう」
「はぁ…。」
そうして妻の叔母が私の背中側で数珠をじゃらじゃらと鳴らし、お経のようなものを唱える。わずか4~5分程で終わる。
「そういう心霊の類じゃないって分かっただけでも一歩前進じゃない!」
と妻が努めて明るくそのように言いながら、叔母に封筒を手渡している。おそらくお金を渡しているのであろうが、私のためにしてくれていることなので何も言わない。
「そうだなぁ。まぁしばらく様子を見て更に悪化するようなら病院で薬でも出してもらうよ。」
これまでのことがコロナの後遺症であるなら、コロナウイルスにはどのような本能があるのであろうか。もちろん知能などは存在しないだろう。ウイルスであるので単体では生存できず、別の生き物の中でしか増殖や生存ができない。
ウイルス同様に寄生虫も別の生き物の中で無いと成長できないものがいる。魚介類に寄生するアニサキス等もイルカや鯨に食べられるために、その前段階で鯖や鰯に食べられるという。イルカや鯨の中でしか成体になれないからだ。人に食べられると大暴れする。
カタツムリに寄生するロイコクロリディウムもカタツムリを操りわざわざ高い場所に移動しつつ触角を動かし鳥に食べられる行動をとる。こちらも鳥の体内でしか成体になれないからだ。
カマキリに寄生するハリガネムシに至っては宿主であるカマキリを操り入水自殺させ水中で出産したりする。
ではコロナウイルスはどうなのだろうか…?。コロナウイルスの本能と呼べるものが、帰りの車中で私に幻覚・幻聴他、怪異現象を引き起こすことにどのような繋がりが…
「先生、もうみんな問題解き終わってます」
「ああ、ごめんごめん。じゃ答えを言っていくね。隣とプリント交換して得点出してあげて~」
「「「はーーーいっ!!」」」
…さて、今日も仕事を終えた後の最も憂鬱な帰宅の時間である。
ヘッドレストの極々近い後ろから女の声で
「…ふっふふふ、違うわよ…」
と聞こえたり、誰かが左手の上腕部をがっと握ってくる感触があった
昨日、妻の叔母に祓ってもらった直後で悪いがその日も症状は出た。
家まであと300m程の地点で対向車のトラックが突然センターラインを越えこちらの車線に大きく割り込み、突然逆走している。
「う…うわぁぁ!!!」
とっさにこちらも右にハンドルを切りセンターラインを越え回避しようとしたが、
トラックはまったくセンターラインをはみ出しておらず左車線を普通に走っていた。
ドッ…
正面衝突。
ガァ…
その狭間の時間で私は分かった。コロナウイルスの本能は
復讐、道連れ、心中
体内で一度大増殖したコロナウイルスの分身が一転、今度は体内で次々と根絶される。そして絶滅の間際に復讐として脳に時限爆弾を埋め込んだのだ。私の仕事終わりの集中力の落ちる夜に不具合を起きるようにし、私が人生をふいにするように。
シャァァン!!!!!!