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まばゆい光を、新月に、自分の部屋で、一等賞としてもらいました。

 神話体系


 ▽月◇日  ■⊿◆(主)は世界を創造した。


 5月25日 ■⊿◆(主)はある少女を×県×市×町に遣わした。少女はパーマを当てないでも一本と真っ直ぐの髪をボブにし、少々のなで肩で細身の体は引き締まっている。目は大きく睫も長く、鼻筋はそう高くないが小さい口を大きく開けて笑うのはチャーミングであった。少女は周囲に愛された。身体能力が高く勉学に真面目である彼女は、閉鎖された学校の中で可愛いともてはやされていた。少女は学校を明るくした。


 6月11日 ■⊿◆(主)は少女に計画を実施せよと宣われた。少女は計画を実施した。街から灯りは消え、電気が供給されているのにも関わらず消費されているのは×市民病院だけとなった。町の半分は静かになった。


 6月13日 少女は■⊿◆(主)への信仰心を示すべく、再度計画を実施した。町の残り半分は静かになった。×町に完全なる静寂が訪れ、■⊿◆(主)は必ずお喜びになると少女は満足した。


 7月×××日 少女は■⊿◆(主)に×××を献上せしめた。



 ある少年の手記(発見当時は×町のあらゆる場所に散らばっていたため、順不同)


 6月10日 憂鬱な日だったが相変わらず▽さんは元気だった。(少年が▽というボブの少女に興味を持っている内容が以下に続く)


 7月13日 目が覚める前のことを記しておかなければと思う。とにかく記録する。目を覚ますと病院のベッドの上だった。×病院は大きい病院だが、ベッドから起きたのは僕一人だ。周囲には同じように寝ている町の人たちが病室の中で密集して、ベッドだらけで足の踏み場も無い。しょうがなく自分が窓際だったので、ベッドと窓際の壁の隙間に体を入れて床に降りる。ほふく前進してもなかなか入り口が見えない。その間に気付いたのが、寝ているみんなの呼吸とか寝返りとかがぜんぜんしなかった。ただ寝ているんじゃ無くて病気か怪我なのかもしれない。自分がなんで怪我したのかを思い出す余裕がなくて、なんとかベッドの天井から狭い扉に向かって進んで、やっと廊下に立てた。振り返るとベッドがぎっちぎちに詰められている。

 (日付無し) そこで町の人の服装を見ると、警察官やお医者さんなんてのもいた。みんな仕事中だったのにそのまま倒れて運ばれてきたみたいだ。エプロンをつけたお母さんなんかもいる。でもおかしいのが、みんな呼吸の声も、寝返りも一切無くて全員仰向けに目を閉じていること。だけど口が少し開いてて、そこにチューブみたいなものが繋がれていること。それがさっき見た床には無かったから、ベッドの横からどこかに伸びているみたいで、一番端の人のベッドの横を見ると透明なチューブがどこかに繋がってるみたいだ。何となく気になって、目でそれを追ってくと廊下の先にあるものに繋がっていた。肉の塊みたいなもの。色は血の固まったような色一色で、なんか天に向かって伸びてる花のつぼみのような、先が尖った形の上半身ぽいのと、少しくびれて下半身っぽいずんどうなのが付いている。それが何なのか分からなくて、まじまじ観察した。


 7月14日 寒い。廊下のが怖かったがなんとか横切ってとにかく病院の階段を降りた。病院の階段ってどうしてああ怖いんだろう。荒く塗った壁に蛍光灯?が反射して、なんともいえない不気味さがある。一階まで降りてみたが誰にもすれ違わなかった。受付に電気が付いてたけど、切れかけてた蛍光灯もあった。でも誰もいない。気配も無くてしーんとしてた。自動ドアは開いたから、電気はやっぱり来てた。で、外の空気がむわっとしてて雨が降る前の薄暗い漢字だった。夏だからやっぱり夕暮れ前とかかなと思ったけど、時間が分からない。もう一度病院に戻ったけど待合室の時計が止まってた。一階上がって病室にかけられてる時計とか見ようとしたけど、二階も三階も僕がいたのと同じでベッドがまんぱんに詰められて、足の踏み場も無い。みんなそこに寝てる。揺さぶってみたけど、起きない。いびきでもない変な呼吸音だけ聞こえた。電化製品がずっと動いてるみたいな音。がーーーーーーって。


 (日付無し) なんとか家まで帰った。でも誰もいなかった。おかしいけどとにかく冷蔵庫を開けて、前に食べた煮物がラップされたのをチンして食べて、炊飯器からごはんをよそった。。あったかかった。でもウチの炊飯器には、保温した時間が表示されるんだけどおかしかった。88時間の保温になってる。もしかして、ずっと寝てたのか?


 7月15日 風呂に入って自分のベッドに潜り込んで、朝になったら起こされるかと思ったけど、起きたら10時だった。誰も起こしに来ない。学校からの呼び出しの電話も無い。家族もいない。


 7月16日 電化製品は動いてるけど、テレビを付けても砂嵐しかない。世界が止まったみたいだ。


 7月18日 思い出しながら書いてみる。13日に書き始めてから、ずっと考えてたんだけど、僕は学校に行ってたはずだ。それで夕方になって、下校しようと思ったんだ。先生に部活のことで呼ばれて、みんな部活か帰った時間帯に階段を上がってた。そしたら階段から知らない生徒が落ちてきた。突き飛ばされたのか、吹っ飛んできた。僕は避けられたんだ。そこで、そこで階段の上にいたのが▽さんだった。彼女はいつもみたいにニコニコ笑って、大きい目で僕を見たんだ。咄嗟に逃げろとアラームが鳴った。逃げなきゃまずい、やばい、って僕は階段を駆け下りようとした。その視界の端で、▽さんが階段を一段一段凄まじい勢いで踏みながら降りてくるのが見えた。普通一段飛ばしとかするだろうに、わざわざ高速で一段一段降りてきて、僕の肩をがっと掴んだんだ。めちゃくちゃ痛くて振り返ったら、▽さんはいつもみたいににっこり笑った。僕くんもだよ?って。彼女はそう言ったんだ。


 7月22日 怖い。


 (日付無し) 僕は階段の上にそのまま引っ張り上げられて、女の子なのに父親みたいな力の強さで逆らえなくて、階段の一番上から突き飛ばされた。▽さんの顔がその時変なものに見えた。でもそれが思い出せない。ホラー漫画とかなら歪んだ顔なんだろうけど、そんなんじゃなかった。人間じゃないとかじゃなかった気がする。


 7月34日 誰もいない。この世界に誰もいないのに、電気は付いて病院でみんな寝ている。どうして僕だけ起きてるのだろう


 7月35日 学校、警察、丘の上、僕が歩いて行ける範囲は行った。誰も起きてる人はいなかったし、警察では机の上に大量の書類が置いてあった。覗いてみたら、大量転落、と書いてあった。これって僕のことじゃないか。それと僕が見た生徒のこと。あまりに大量にあるから、ざっと呼んでみたけどお年寄りも幼稚園の子も、警察も、消防士も、みんなそこに

名前があった。でもここには警察の人がいない。きっと▽さんにやられたんだ。警察に誰もいないってことはきっとそうだ。


 (日付無し) まぶしい。


 7月5い9日 お腹は空かない。でも孤独だ。僕はもう一度病院に行くことにした。この町のことは隅から隅まで調べたけど、もうなんの感情も湧かなかった。もう一度僕は眠りたい。


 (日付無し) おめでとう、僕くんと▽さんがそこにいた。病院の屋上に、彼女はあの日僕を突き落とした夕日の中とおんなじで。彼女はにっこり笑った。僕は▽さんのことが好きだったなあって、じんわり思い出してきたら一気に心臓がどくどくして顔がまっかになった。心臓は好きだった彼女を見れて感謝してるけど、頭は冷えてアラームを鳴らしてる。だめだ、彼女を信じちゃダメだって言ってた。だから僕は彼女に駆け寄れなかった。


 (日付無し) なにを言ってるんだ、彼女は?????僕が選ばれたって。なんだって。


 (日付無し) 僕くんは選ばれたよ。■⊿◆(聞き取れない。でも頭に記号が浮かんだ)がこの世界に飽きたから、仲間になるべく選ばれた人を探すことを私は承ったの。だからみんなみんな突き飛ばしたの。


 (日付無し) 僕の親も?ばあちゃんも、近所の幼稚園の子も、あこがれてなりたい職業の警察官も、みんな?▽さんはそうだよって笑った。だから僕くんは一等賞!だからこれからご褒美だよ!僕は逃げ出した。


 7月てててててて(読み取れない)日 僕は自分の部屋に逃げ帰った。半狂乱でお母さんの名前を呼んだ。でも誰も反応しない。病院、じゃあみんな病院にいるんだ。でもなんでお医者さんも看護師さんもいないんだ?普通医者の処置があるじゃないか。そこで僕はあの日廊下で見た奇妙な物を思い出して、そこでへたり込んだんだ。あれが生命維持装置なんだ。だから誰もいなくてもみんな生きてるんだ。だからあれが廊下にあったんだ。それで僕が一番最初に起きたってなんだ、あれって宇宙人か?地球は侵略されたのか?でも僕が選ばれたって???落ち着け、落ち着け、彼女がなんか言ってた。明日新月でしょ、だから■⊿◆が迎えに来てくださるよ、良かったね!明日、明日新月って。


 (日付が読み取れない) まぶしい。


 (日付無し) 僕の部屋の窓の外に、眩しい光りでいっぱいになった。▽さんの声がした。一等賞!って。やめて。僕はどうされるんだ。やめてくれ


 (日付無し) 僕の意識が急に薄れてく中で、■⊿◆が僕に何かを見せてきた。頭の中に映像が流れ込んでくる。いつもの学校、いつもの教室、いつもの僕の席に花瓶が置かれてる。なんだよいじめか、と思ったら親友の目と鼻が赤く腫れてみんな泣いた後の顔をしてる。その翌日、花瓶が無くなった。でも教室に貼り出されてる座席表に僕の名前が無い。その翌日、机が無くなった。その翌日、僕の家が映って、足腰の悪いばあちゃんの手を引いてたのは僕だったのに母さんがやってる。ああ、僕は消えたんだ。一等賞のご褒美に、僕は■⊿◆と同じ神みたいにみんなを見下ろす座を与えられるんだって。だから僕はこの世界から消えちゃうんだ。


 (日付無し) きえたくない


 (日付無し) さよなら


 (日付無し)                                                                                                                                                                                                                                                        せ       か い                            は







原典:一行作家

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