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「で、門をくぐりたいのよね?」
リルは頷いた。
「まあ確かにあなた、最初からあの子に興味津々だったものね」
静音は諦めたように竜を見上げた。
「おや、どうでも良いのではなかったのか」
「だから条件次第では帰る」
静音は笑いながら返す。
竜は息を吐いた。
「先ほど言ったように、最後の黒玉をなんとかしてくれるなら以降の条件は不要だ」
「気持ち悪いんだけどなあ……」
表情も変えずに静音は言う。
「以降の条件って?」
「黒き血の末の購いだ」
「そなたにとっては、どちらも変わらぬであろう」
「そういうことね……」
「そなたが最初に王に抗ってみせた時に、全ては始まったのだ。待ち望まれた渡り人……暁光の器……」
「めんどくさい……」
「そうであろうな」
はあ、と静音は息を吐き、ガイキを見る。
「なんだ?」
ガイキが眉を寄せる。
「手伝ってもらえます?」
学者の方も見る。
「あなたも」
***
王子と調査隊が、なすすべもなく学者と剣士が消えた光の柱を見つめていたのは数分程だっただろう。
すぐに二人は戻ってきた。
何があったかと王子が問う。
「竜がいました」
学者は端的に答えた。
それを聞いて、背後に控えていた騎士たちがざわめいた。
竜など出てくれば、王都は一瞬にして灰になってしまう。
「セラはどうした」
更に王子が問う。
「そのセラから王へ伝言があります」
「伝言?」
「直接伝えるようにと言付かりました」
王子には伝えることは出来ない、と言っているのと同義である。
「セラは無事なのか?」
「今のところは」
「竜はこちらへ出てくる事はないのか?」
「それも今のところ、本人にその気はなさそうですが、今後どうなるかは判りません」
ますます周囲はざわめいた。
「一体中で何が起こっているんだ」
「竜とセラは一度戦ったようです」
「決着はつかなかったということか?」
「そのようです。竜もセラも、此度の因果は王家の呪いによるものだと言って一旦休戦中です」
「呪いだと」
王子は目を見開いた。
そんなものの存在を聞いたことはなかった。
「一体、どんな呪いだと言うのだ」
「ですので、それを直接王にお話し申し上げたいのですよ」
学者は笑みを浮かべつつ言った。
いつも通り、人を食ったような笑顔だった。
王子が不機嫌そうに顔を歪めると、学者はすっと右手を前に出した。そこには一個の水晶玉が乗せられていた。
「通りがいいように、これを持って行けと、竜と渡り人に渡されました」
学者が玉に魔力を流すと、立体映像が浮かび上がった。
久しぶりに見る渡り人と、その渡り人が見上げるほど巨大な竜が並んで立っていた。
銀色に鈍く光る鱗と紫色の瞳がこちらを見つめている。
「王に目通りをお願いします。お二人に伝言をお渡ししました」
声は渡り人だった。
「此度の様々な事象は古のアルトナミ王家による呪いが引き起こしている事です。王は王となった時に、全てを引き継ぐ筈であり、詳細はご存じでしょう。因果律の結び目を解いて無効にするには、何が必要かもご存じの筈。その一つをお返しします」
すっと映像が消えた。
「これだけか?」
「足りませんか?」
学者は首をかしげた。
「そなた、呪いが何か聞いているのか」
「いいえ」
「本当か?」
ふふと学者は含み笑った。
「お疑いですか?私が王家を謀ることが出来ると?」
王子は顔をしかめた。
制約の紋の事を、王子は知っている。
皮肉に笑う学者の芯にはそれがある事を知っている。
そんなものを施した王家に対して、含むところが何もないわけがない。
王子は、眉をひそめる騎士たちをよそに、半ば傍若無人とも取れる学者の普段の言動を許しながら、その成果物を評価しながら、重用しながら、常に警戒していた。
制約の紋がなければ、この男は……
「予測もつかぬか」
更に問う王子に、学者は肩をすくめて水晶玉を腰のバッグへしまった。
「制約や隷属の魔術で縛ることは、すなわち呪いです。アルトナミ王家は初代王の頃からそれらを頻用してきました。今歪が出ても不思議ではないでしょう」
万年を越えて積もり積もった恨みは強烈でしょうね、とにっこり笑って学者は言った。
王子は言葉に詰まった。
学者はにこにこしたまま王子の返事を待つ。
王子は学者に反して無表情なままのガイキに目を移す。
「そなたは?同意見か?」
剣士は冷ややかな瞳で王子を見返した。
「ああいう魔法を使用するならば、それなりの覚悟を持つべきと考える」
他者の意思を無理やり曲げる事に反動がないはずがない。
かつて、王がこの男に、叙爵を条件に騎士となることを打診した時、考える間も見せず断ったと聞いている。
力を持つ者を野放しには出来ない、という王の言ではあったが、そこにその後どういったやりとりがあったのかは王子は聞いていない。
まさかとは思うが、もしやこの男にも……?
今まで、王侯貴族に対してもへりくだった様子をあまり見せない剣士に対して、不快を表す者もいたが、王子はその力ゆえと考え、深くは考えてこなかった。
だがそれが、学者と同じ理由なのだとしたら……
王子はそれ以上考える事をやめ、直ぐに城への連絡を手配した。
「今日のところは解散しよう。我らは一旦城へ戻る」
押し黙ったまま様子をうかがっていた塔や公爵家の調査隊へもそう告げて、王子は騎士とともに城へ戻るべく神殿跡の外へ出る。
「そなたらは馬車に乗れ」
王子は学者と剣士に同乗するよう言った。
学者は胡散臭い笑みを浮かべながら、剣士は無表情なまま、王子に従った。
一旦書いたものを全部書き直しました。
まだ納得いかない……
頭の中にあるものを垂れ流しているだけのつもりなんですが、書いているうちに違和感に耐えられなくなる現象は一体なんと呼ぶのでしょうね。「違う、こうじゃない」現象?




