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月影映る・海  作者: 林伯林
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 泉の水は見る間に真っ赤に染まった。



 吟遊詩人は何が起こったのか理解できず、咄嗟に浄化の旋律を紡いだ。



 そう、この世界の人には決して発現する事のない浄化の力。


 それがわずかでも発露する旋律を吟遊詩人はその師より受け継いでいた。


 他言無用の旋律と告げられ、だが、その力はわずかであるため他者に知られることもないだろうと言われたもの。




 ---ああ、そうね。良い案だわ……




 月神の言とともに、力が増幅されるのを感じた。


 血の色が薄くなり、神像の姿が見えてきた。



 ---歌うといいわ。



 月神に促される。


 「この旋律には、詩は、無いです」


 ---では、今つけるといいわ。


 それで効力が落ちると言う事はない。選択する文言によっては効果が増すだろう、と月神は言った。


 「具体的には?」


 ---私が教えたら意味がないのよ。


 吟遊詩人の内からあふれる言葉にこそ力が宿る。


 月神は瑠璃色の瞳を細めて笑った。




 ギィは大きく深呼吸した。




 ----泉の水は水晶




 その一文だけで、水面にさざ波が立ち、赤が薄れた。



 底砂は星のきらめき

 溢れるは癒し

 神に仕えし者は、全き姿で横たわる



 きらきらと水が輝き、虹色に光る。

 綺麗に赤は消えて行き、覗き込むと、神像の胸に走ったと見えた傷は跡形も見えず、最初の姿のまま横たわっていた。


 ギィはほっと息をついた。



 ---まだ演奏を止めないでね。



 月神はそっと囁いた。



***


 召喚されてから最初の数日、記憶が曖昧な事を何故か今まで静音は不思議に思っていなかった。


 非日常が過ぎたせいだろうとなんとなく思っていたが、魔沼に連れて行かれて浄化させられたことだけは鮮明で、あれとて当初数日のうちの出来事であれば、もしやそのことが他の記憶を薄れさせてしまったのだろうかとも思っていた。


 だが今、明確に思い出した事がある。


 王によってなされた秘密の儀式。


 事前に食事に何か混ぜられていたのだろう。身体の自由を奪われ、意思も奪われそうになったが、それだけは寸前で保たれていた。


 そのことが必ずしも幸いでなかったとすぐに知ることになった。


 運び込まれたどこかの部屋。魔法陣の浮かぶ寝台の上で衣服をはぎ取られた。


 仄暗い目をした王がのしかかってくる。


 声までも封じられ、悲鳴は喉で止まり、意識だけは明瞭で……





 静音は腹の底からこみあげてくる吐き気に殊更激しく吐血した。





 王の手には精に塗れた真っ黒い闇のような玉が握られていた。


 全てを吸い寄せて取り込んでしまいそうなその玉が、額に触れ、鼻筋を滑らされ、唇に押し当てられ。


 首筋を胸の間を通ってへそを通り過ぎ。


 身体の奥へ埋め込まれた玉は闇の力を発揮し、抉るような熱と痛みで、目の前が真っ白にはじけ飛んだ。





 記憶はそこで途切れている。





 静音は激しく嘔吐しながら、あの時の術が不完全であった事に気が付いていた。


 あれは、己の意志も行動も縛る為の術であったろうが、そもそも静音の意識を失わせることが出来なかった段階で、失敗している。恐らくは充分な量の薬物が仕込まれていたであろうにもかかわらず。


 次に目覚めた時には、身体は動いた。


 起き上がると、手首足首で輪ゴムが弾けるような音がした。


 それが何であったか、今まで気づかずにいた。


 何しろ、儀式の記憶が失われていたからだ。


 だが、今なら判る。


 あれは、恐らく拘束の為の魔導具であったのだろう。


 ご丁寧に両手両足に施されていた。


 それを起き上がるだけで弾き飛ばしてしまったのだ。


 体内に埋め込まれた闇の玉にしても同様だ。静音の中の浄化の力が玉を包み込んで闇を晴らしてしまった。


 今吐きだした透明な石があの闇の玉の本体であり、自身の中で、ゆっくりと変質し、溶けて消えかけてすらいたのだと理解した。




 「何故……」


書いてて自分も気持ち悪くなってきました。


ゲーム動画見て、3D酔いしたせいだけではない、と思われます。


日曜日の爽やかな朝から失礼致しました。

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