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王は生まれた時からそれを待っていた。
時折夢に見る、およそ人とは思われぬ美貌の娘。
透き通るほど白い肌、紫を帯びた青の瞳、流れ落ちる銀の髪。
指先からは金色の魔力が零れ落ちていた。
その金に光る指で、娘は宙に不思議な魔法陣を描いた。
魔法陣は完成するとするすると解け、一本の糸になって、こちらへ伸びてくる。
その糸が届く前に目が覚める。
繰り返し夢に見た。
時を経るごとに、徐々にそれは近づいてくる。
身じろぎもできず、ただ、待っている。
長く放置されていた神器に魔法使いたちが魔力を注いだ時、杯は金色に光った。
王はそれを見て、夢に見続けた魔力の光と同質であると気が付いた。
だからこそ。
現れた渡り人が女人と知り驚くより先に、現れ出た一瞬のみ金色の光に覆われたことの方に驚いた。
あの光は、自分に向かって伸びていたのではなかったのか?
それを持ってあの世にも美しい娘と何某かの交流を持つのだと、長い年月思いこんでいた王は、当てが外れたような気分になった。
渡り人が顔を上げ、こちらを見た。
黒い瞳だった
一瞬だけ目があった気がした。
きつく、睨みつけるような眼差しだったが、その輝きが、夢の娘に似ている、と思った。
外見は似ても似つかぬ容貌でありながら。
夢の娘は、恐らくは始祖が契約し妻とした精霊ではないかと思っていた。
表向き、始祖の妻は「役目を終え、ある時肉体を置いて精霊界へ帰った」とされているが、人間界が合わず、弱らせて死に至らしめたとは王にのみ伝えられている真実である。次代の王に申し送りされる事物の中に入っていて、王は即位して初めてそれを知った。
初代王が殺した精霊。
それがなぜ夢に出て来るのか。
力の弱ったアルトナミ王家を案じて、というわけでもあるまい。
仕返しの一つも覚悟していたが。
ふと、渡り人の予想外の出来がそれか、とも思われた。
申し送りされる事物の中には、宝玉が幾つかある。
その一つが「魂縛の玉」と呼ばれている。
渡り人の黒い瞳の輝きによく似た黒玉だった。
初代王の遺言がある。
再び精霊と契約をなす時は黒玉を用いよと。
アルトナミ王家にとって、精霊の力を取り戻す事は今はかなわぬ悲願でもあった。
魔力暴走以来、一切の姿を見せなくなったと言われる精霊。
それがもし今も存在しているのであれば。
王は夢を見る度、何度も夢想した。
次こそは、精霊を永遠に縛ることを。
ネットが一晩死んでました。
ネットジャンキーなので、禁断症状で震えてました。




