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「何の話だ……」
男は不審げに眉をひそめた。
「あなたの三代前の皇帝が甥っ子を追放したでしょう?」
男は目を見開く。
「凡庸を装っていたのに、それでも気に入らなかったのかしらね。追放に従っても命は無いと悟った甥っ子は海を渡ったのよ」
「同時にこの国にいても先がないと思った人達が彼につき従ったわ」
「能力的には優れた人達が多かったそうよ。身分なんかのせいで上から搾取されている人達でもあったそう。そういう人達がごっそり抜けて、その後大変だったという話、聞いてない?」
公になっては恥でもある為、あからさまに伝えられてはいないが、曽祖父は国力を落としたとされ、話題に上ることは少ない。
「彼は最初一人で海を渡るつもりだったから、予期せずついてくることになった人達に戸惑っていたけれど、結局面倒を見たのよ。その結果が今の南方諸島。荒海に守られた場所で漸く命の危険なく穏やかに暮らせるようになって人々からもとても感謝されているようよ」
ずっと隠してきた魔導士としての才能も如何なく発揮できるし、今、あの島々は彼の魔導に支えられてとても暮らしやすい環境よ、と月神はにこにこしながら言い添えた。
「彼の統治者としての能力は、とても高いわね」
あなたとどっちが優れているかしらね、とあおるようなことを言う。
静音は少し呆れた。
「血も能力もあなたと同等。あなたにはその「目」があるけれど、彼には精霊の加護と魔導士の才能がある。あなたの基準だと統治者にふさわしいのはどちらなのかしら」
くすくす笑う月神を男は憎々しげに睨む。
「あなたの曽祖父と同じように彼を殺そうとする?」
実質不可能な事である。
帝国の人間も船も南方諸島にはいくことができない。
航海術は秘され、南方諸島の船乗りは、帝国では船を下りない。下船するのは商人で、彼らは航海術が何かを知らない。
乗船してきた者しか帰りも乗せず、帝国が時折査察と称して乗り込んでくるが、何も見つける事は出来ない。
乗組員を拉致して責め立てようとすると、いつの間にか乗組員は鍵のかかった牢からさえ姿を消す。
船は阻んでもするすると港を出入りする。
彼らの持ち込む商品が帝都の食を支えている事実もあり、それ以上は強硬な手段も取れないのが現状であった。
「魔力が豊富な彼は、未だに青年のようよ。あなたの寿命が尽きる前に会えるといいわね」
月神がぱちんと指を弾くと、男の意識が落ちた。




