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月影映る・海  作者: 林伯林
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 天に輝く銀の光よ

 翼に百合の花散る乙女を遣わし何を知らしめんとや




 ギィは何度も歌い出しを試し、最後にこれと決めたフレーズで歌った。

 静音は聴きほれつつ、自動人形の性別について考えた。

 あれは確かに乙女に見えもするが、恐らく性はない。


 ルーも同様だ。

 依頼側はなるべく人間に近い形を要求したらしいが、デザイナーも受注側も性別をつけることは拒否したという。

 理由は、言うまでもなく倫理的な問題が発生しないように。

 都市の警備を担う人形でさえそうした懸念があるとは、人とは業の深い生き物である。


 セクサロイドのような人形も存在したのかとルーに問うと、言葉を濁された。

 性機能を持つ人形を作成する事そのものは禁止されていなかったらしい。

 ただ、高額な自動人形にそこまで機能を求めると更に高額になり、オーダーできる人間は一握りであったと。

 そこまで行って口をつぐんだルーを見て、それ以上は尋ねなかった。

 だが、恐らく安価な量産品が開発され、それなりな商売が成り立っていたのだろうことは想像に難くなく、何処も同じか、と思ったのだった。

 そして、静音は現状見た目は若い娘だが、中身は五十路過ぎであり、そこまで気を使う必要もないのだと、再度ルーには言ったのだった。



 

 微笑は円やかな蜜

 眼差しは暖かな雨



 「あ……」


 静音は上を見上げた。



 ふわふわと白い衣を翻しながら有翼の自動人形が下りてきていた。



***


 自動人形は、最初穏やかな微笑をギィに向けた。


 ギィもそれに応えるように会釈し、歌を続けた。



 我らに安寧を与えしか

 我らに予言を与えしか

 我らに運命さだめを知らしむか



 「力」の乗った声は四方の壁に金色を帯びさせ、中央の泉の神像は眩いほど光り輝いた。


 静音はじっとそれを見つめた。


 やがて光は弾け、そのうちの一つが静音の所へ飛んできた。


 現在、霊体に近い存在である静音の身体を、それは通り抜ける、筈だった。



 静音は息をのんだ。



 光は静音の身体に留まり、泉の中の像のように輝いた。




 「鳥」は静音に目をとめた。




 その瞬間、柔和で完璧な美貌が豹変した。





 眦がつり上がり、口角が上がって耳まで裂ける。





 静音はちらりとギィを見た。

 何となく、自動人形の今の顔を、彼が見た反応を知りたかった。

 

 ---またリルに悪趣味って言われそう。


 そう思った途端、目の前に鳥が迫り、長い爪を伸ばした腕を袈裟懸けに振り下ろされた。




 霊体である以上、通り抜ける……


 筈ではあった。




 油断していたつもりはなかった。

 しかし、常に己の周囲にシールドを張り巡らせていた為、攻撃を受ける事に若干無頓着になってはいた。

 そして先ほど、ギィが歌の魔力で霊体に僅かな時間、実体を与えてしまった事をうっかり忘れていた。



 結果、目の前を盛大に噴きあがる己の血飛沫を見る事になった。



 ギィは驚きのあまり歌を止めた。



 静音の魔力は四散して、姿はその場から消えた。



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