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月影映る・海  作者: 林伯林
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05



 魔導人形が停止状態から自動リブートで意識を取り戻した時、その身体は上部がグレーのドーム型の結界の中にあった。

 周囲を探ると、砂浜に突如現れた正体不明の亜空間は変わらず存在し、一万年ぶりに関知した「人」の気配は海の中にあった。

 一万年前も「人」は漁をする以外でも海で遊びはしたが、これほど潜ったり泳いだりはしていなかったと記憶している。

 第一上流階級の女性は肌を見せたり日焼けを嫌がって水に入ることはしなかった。ざぶざぶと遠慮なく水につかってはしゃぐのは下町の子供達だった。それであっても裸ではなかったと記憶している。


 「あら、意識が戻ったのね。調子はどうかしら」


 ふと気が付くとその「人」は海から上がってきていた。

 いつの間に移動してきたのか全く分からなかった。

 転移の使い手なのだとそこで漸く気が付いた。

 「人」は風魔法で身体の水滴を飛ばすと黒いワンピースをすぽんと頭からかぶった。

 結界の中に設置されていたテーブルへ近づくと、虚空から掴み出すように陶器のカップを出し、その中に水を出現させた。

 柑橘類と思しき緑の実を取り出し、空でどうやってか串切りにして、そのうちの一つをカップへ入れると、からりと音がした。

 どうやら氷まで出現させていたらしい。


 「あなたもいる?魔導人形と言ってはいるけれど、あなた人造の生体なのよね。水とか経口摂取する必要あるの?」


 じっと見つめていたせいか、「人」はそう尋ねてきた。

 魔導人形は首を振った。


 『必要ない。全て空気中から取り込むか、特殊な「食事」で摂取する』


 「そう」


 「人」はカップに口をつけて水を飲み干した。


 見ているだけで、空間魔法、風魔法、水魔法を使うこの「人」は一体何者なのだろう。

 魔導人形は「人」の容貌を見やる。

 髪は漆黒で混じりけもなく、顔の彫りは薄めだが、瞳はくっきりと大きく印象的。

 瞳の色も黒だったが髪よりは少し薄く、時折不可思議な色を帯びた。あの無造作に取り出したオパールの遊色のように。

 オパールの代わりにと注ぎ込まれた「人」の魔力はまるでその遊色の奔流だった。

 怒涛の勢いで押し寄せ、視界を染め上げ、全身を満たし、意識を空のかなたへまで押し上げたかのようだった。

 あんな事をする「人」を見たことが無かった。

 そして、あれほど満たされた気持ちになったこともなかった。

 

 「この島って水はあるの?私はこの島の砂浜から内側へ入る事は出来るの?」


 そして問われた事に少し驚いた。


 『水は、ある。山が溜め込むので川もある。あなたは外部の人間で、キシュキナへ入るなら「海洋の門」を通って身分証明を行わなければならないが、門もキシュキナの大部分も海の底だ。今更手続きに拘るのはナンセンスだ』


 「セキュリティシステム上、大丈夫なのか確認したいだけよ。突然攻撃されたりしたくないもの」


 『この島で生きているセキュリティシステムは私だけだ』


 魔導人形は手首に幾つも通している腕輪の一つを外した。


 『不安ならこれをつけているといい。私の権限で渡せる入国許可証だ』


 差し出された腕輪を見て、静音は少し警戒するような素振りを見せた。


 『どうした?』


 「腕輪にあまり良い思い出がなくて……」


 言いながらも、何かを振り捨てるようにして腕輪を受け取った。


 「中に入る時つけるわね」


 そう言って、収納空間へ格納した。


 「ありがとう。だいぶ遅ればせだけど、あなたの名前は何?なんと呼べば良い?」


 『エ・リュミ・ノエラ・ルー』


 「長いわね」


 『ルーで』


 「判ったわ。私は静音。発音できる?」


 『シズネ、大丈夫』


 「良かったわ。アルトナミの人は誰も発音できなかったから」


 『アルトナミ……まだあるのか?』


 「あるわ。聞くところによると一万年前と違ってだいぶ小さい国になっちゃったらしいけど」


 魔導人形ルーにとって、その国の名は穏やかではいられない名だった。


 『シズネ、あなたはアルトナミから来たのか』


 「ええ」


 『あの国の民なのか』


 「違うわよ。嫌だから逃げてきたのよ」


 『どういう事だ』



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