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月影映る・海  作者: 林伯林
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 「はあ」


 静音は温泉に浸かって大きく溜息をついた。


 オウナでの出来事は、思った以上の情報量で、行って良かったとは思ったが、己のこの世界における存在意義についての認識が実際とあまりにもかけ離れていた為、とても疲れた。


 身体的には問題ないが、精神的疲労は深く、静音は、戻った途端、寝込んだ。

 シェルター内には未だリルもルーも入れず、二日ほど出てこない静音を外で待って気をもんでいた。


 月神と何を話したのか、リルもルーも聞かなかったが、大体見当はついているように見えた。


 敢えて話す気にもなれず、静音は二日後にシェルターを出て温泉に滑り込んだ。


 「寝込んでいたと言っても、ダラダラ寝てただけで、熱が出たりしたわけじゃないから心配しないで」


 静音がのんびり言うとリルは頬を膨らませた。


 「心配するわよ」


 「ごめんって。疲れたから暫く寝るって言ったじゃない」


 「二日も出てこないと思わないじゃない。ただでさえ月神の寝床を見てきたばかりだったのに」


 何時目覚めるとも判らない月神を長い時間待ち続けた精霊たちは、明らかに疲弊していた。

 あれを思えば確かに悪い事をしたかと静音も思う。


 「次からは寝室にリル達も入れるようにしておくわ」


 「次があるの……?」


 リルは若干顔色を悪くする。

 静音は苦笑した。


 「もし寿命がトーヤ程あるなら、眠って過ごすのもいいかもしれないとは思ったわね」


 トーヤがどれくらい森で暮らしていたのかは定かではないが、長い時間だったのではないかと思う。

 何があり、何を思って隠遁したのかはガイキでさえ知らされていないようだったが、暁の神官と何某かあったのではないかとも。


 「トーヤには森の民の女性がいてくれたようだし、私にはあなたたちかしら。そうしたら眠らなくてもいいかもしれないわね」


 静音はリルを見やった。


 最初に会った時にくらべると、やや大きくなったように思う。空気に溶けるような存在感だったが、輪郭もよりくっきりとしてきた。

 これが契約者と契約し、ともにいる、という事だろうか。

 どの程度契約者といたのかは判らないが、カエンは幼児程度の大きさだった。

 それを思えば、原初の精霊と呼ばれるシリル・バトゥなど、人間の寿命をはるかに超える年月太陽神といたのだろう。

 たいそう愛されていた、と月神は言ったが。


 「そういえば、カエンは?」


 オウナ大陸からついてきた火の精霊の姿を探す。


 「火口の方にいるわ。居心地がいいんですって」


 もとは火山にいたのだ。今や噴火しない山とはいえ、火口は住みやすいのだろう。

 溢れているのは溶岩ではなく、魔力粒子だが。


 「あそこにいると大きくなったりしない?」


 ふんだんな魔力にさらされて。


 「多少は影響あるかしら」


 リルは暢気だ。


 「暁の神官みたいになったら……まあ、いいか」


 その時はその時だ。

 リルは笑った。


 「何よ。シリルみたいになったら嫌なの?」


 「少なくとも可愛くは無いなあ……」


 美人にはなるだろうが。


 「静音は可愛いのが好きなのよね。私が成長して大人の姿になったらどうする?」


 「どうもしないわよ。リルもカエンも美人になるだろうから、ルーと三人で迫力あるでしょうね」


 美形に囲まれて、地味な自分は埋没しそうだが、毎日目の保養か、と静音は想像する。


 「静音が望むならこのままでも、美男になってもいいわよ?」


 リルが面白そうに言う。

 精霊に性別は無いと聞いたが。


 「男性体が好みなら、そうしてもいいわ。シリルみたいに」


 眩暈がした。

 自由に姿を変えられるという事か。


 「リルには今の姿が似合っているわよ。気ままで、喜怒哀楽が素直に出て、ふわふわで愛らしいわ」


 ふふふ、とリルは笑った。


 静音は男性が僅かに苦手である事にリルは気づいている。静音も、隠そうとはしていないが。


 「男性が苦手なのって前から?それともこちらへ来てから?」


 「前からそのきらいはあったわね。社会生活が営めない程ひどくはなかったけれど」


 「それじゃむさくるしい騎士まみれの遠征隊って大変だったんじゃ?」


 「いやあ……」


 静音は鼻にしわを寄せた。


 「あれは光魔法のお嬢様方が酷過ぎて。騎士たちの方がはるかにましだったわよ」


 少なくとも嫌がらせはなかった。

 ガイキに稽古をつけてもらって嬉しそうにしている様は無邪気にも思えたし。


 「ま、親しくもしなかったけれども」


 「静音の事だから誰にも近づかなかったんじゃないの?」


 「そう……でもなかったわね。結果的に」


 ガイキと学者とは思った以上にお近づきになれた。なってしまった。

 恐らく渡り人である神子の為に用意された剣士と魔導士。

 今に至るまで関係性が続いてしまっている。

 別段歓迎しているわけではないが。


 「そういえばエイディスに怒られた事があったわね……」


 いつまでそうして一人でいる気だと何か責めるような口調で問われた。

 誰も信用できなかったのだから仕方がない。

 あの環境で誰かを全面的に信頼できるのはよほどの能天気であろう。無茶な事を要求されたものだと思う。


 「ふうん」


 今思えば、何故彼はあんな事を言い出したのだろう。

 別段静音が孤立していようと彼の仕事に不都合があったわけでもないだろうに。

 その上……


 「エイディスってなんであの鳥につきまとわれてたの?」


 何気なくリルに尋ねてみる。


 「んん~、あれは呪い」


 答えないと思ったリルが答えた。


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