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月影映る・海  作者: 林伯林
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 どう解釈すべきか考える前に、位相は戻され、再び時は動き出した。

 はじけるイェルキラの笑い声と、華やぐ精霊たちのさざめきが返ってくる。


 静音は疲れ果てているのを感じた。


 一瞬の間もなかったはずだが、何事かあったのを、リル達は察したようだった。気遣わしげにこちらを見てくる。


 再訪を約束して、一旦辞すことにした。


 帰りにイェルキラ達が紫色が出る茶葉を手土産に持たせてくれた。


 香りが良く、疲労回復に効くそうだ。


 有難く受け取って転移で地上の荒れ地に戻った。


***


 「私たちはキシュキナへ帰るけれど、カエンはどうする?」



 静音が問うと、カエンは火山帯の方角を見やった。


 噴煙が上がり続けているのか、そちらの空は黒く陰っていた。


 「連れて行くと約束してくださいました」


 カエンはそちらから目をそらさず言った。


 リルはそっとカエンに寄り添った。


 「では行きましょうか」


 静音はそれ以上何も聞かず、リル達を「魔力膜」で囲い込んで転移した。


***


 転移後、間もなく、イオジノレの火山帯の山々は次々に噴火を始めた。


 オウナ一と言われた魔導士の作った装置は、絶妙な位置に打ち込んだ杭数本で障壁を築いてマグマへの魔力脈の影響を遮る他に、障壁への負荷を減らすために、地中の魔力脈からマグマを刺激する魔力を吸い上げ、影響を最小限に抑える仕組みも作られていた。が、人はそれをよく理解しておらず永久機関と勘違いしていた。


 吸い上げた魔力を溜める為の魔核から、定期体に魔力を抜き取るのはカエンの役目だった。


 カエンは魔導士にその役目を任じられた時、天にも昇る心地だった。


 契約者の役に立てる事が嬉しかった。


 だが、その魔導士はもういない。


 救っていたはずの人々に厭われ、あらぬ疑いをかけられ、魔封じの道具をつけられて殺されてしまった。


 死の間際、魔導士はカエンに言った。


 「決して人を恨むな」と。


 魔導士もまた、無邪気に笑う精霊が、怒りや悲しみで別なものに変じてしまう事を危惧したのだった。


 カエンは契約者の遺言は守る。守らなければならない。愛した契約者への手向けでもある。


 恨んでいけないのであれば、無関心になるしかない。


 カエンは魔核から魔力を抜く役目を放棄した。


 契約者が課した役目は、その死とともに消滅する。続けるかどうかは精霊しだい。


 精霊は気まぐれと言われている。


 心の赴くままに行動する事を非難するものは誰もいない。




 最後に、魔力を吸い上げるのではなく、「送り込んだ」のもまた気まぐれ。




 祠の「維持」は解いてきた。


 早晩噴火で壊れるだろう。


 魔法陣は砕かれ、火の精霊によって送り込まれ、「逆流した」魔力が溢れて火山帯の山々の噴火を誘発するだろう。




 あの山の周辺は再び、人の住めない土地どころか、人の寄りつけない土地となるだろう。




 それを眺めながら、カエンは亡き魔導士を思って静かに暮らすつもりだった。


 人の来ない火の山で。


 意外な訪問者に会うまでは。


*** 



 活発化した火山帯の山々の度重なる大噴火によって、イオジノレの三分の二を占めていた東の荒れ地の一部に雨が降った。


 不毛の地と言われた場所に、ひっそりと緑が芽生えた事を知るのは、地下深くで眠る月神とその眷属である精霊のみ。


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