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「その前に」
静音は、学者たちが映る魔法陣の方へ移動した。
魔力を流すと、三人は今、どこかの砂浜にいた。
沖に見える島に渡る為の算段をつけようとしているようだったが、近くの村で船を出すのを断られた所だった。
漁をしているとは言っても、魔物がいるためあまり沖には行けないらしい。
学者たちの姿が魔法陣で追えているわけは、静音が最初の邂逅の魔法陣に魔力蛍を置いて、別にもう一つガイキにマーカーとして、くっつけているからだった。
遠ざかっていく三人の旅路を見たいと言うと、リルがその方法を考案した。
まだ魔力脈の乱れが残っている時代なので、あまり距離が開くと難しくなるかもしれないと言われて、静音は試しに魔導衛星の高度に魔力蛍を浮かべてみた。地上近くより、上空の方が魔力粒子が薄くなるはずなので乱れの影響も少なくなると考えたからだったが。
そこで、丁度「死んだ」魔導衛星を発見し、魔力蛍を「載せる」と、どんなに距離が開いても映像がクリアになった。
電波ではなく、魔力糸を長く長く伸ばして通信する。
実験のつもりで行ったが、あまりにもスムーズにつながったので、驚いた。
同時に魔力糸はどこまででも伸びるのだと再認識した。
「内在魔力だけで魔法を使うなら、不可能だっただろう」
ルーは呆れたように言ったものだ。
確かに、外部魔力を意のままに出来る静音でなければ、「現地」の魔力を利用して魔力蛍や魔力糸を作れない。
静音の存在は「こちら側」にあったのだから。
とはいえ、静音以外の誰も、こんな魔力の使い方はしていないのだったが。
一応、ガイキにはマーカーをつける許可は得た。
魔力糸を「通す」時は、まずガイキから十メートル離れた場所から映すこと。
色々不都合な場面だと「そっちが困るだろう」と言われた。
確かに、入浴や着替えや、その他困る場合はある。
ガイキ自身は「(見られても)別に構わん。好きにしろ」と言うことだったが。
静音達が画像だけでも追う事については、右も左も判らない、不測の事態が起こるかもしれない古代アルトナミを旅するにあたっては、保険は多い方がいいという考えのようだった。
ガイキの方にも懸念があるのだろう。
リルによると各地に置かれた魔法陣の中でも、「時渡りの魔法陣」は特殊で、そもそもガイキが向こう側から起動させなければ、静音達は見ることは出来ても現れることは不可能だったらしい。
魔核は魔結晶が使用されており、維持の魔法でがっちり保護されている上、起動までは間違っても魔核から魔力が流れないようストッパーがつけられていたという。
そのストッパーが外れる条件は、「外部魔力」を使う事。
まるでガイキ達が時を越えて訪う事を予知していたかのように。
「あの島には渡して差し上げますから、翼がある月神の像があれば教えて下さい」
唐突に現れて用件を述べる静音に三人は呆然としていた。
「げ、月神ね。判った」
我に返って学者が頷いた。
「翼がある月神です」
静音は念を押した。
「う、うん。判った。理由を聞いても?」
「太古の月神像はそうだったと聞いて興味が湧いたのです。ご覧になった事は?」
「ないね。そんな話も初めて聞いたよ」
「精霊が教えてくれました。ですが彼女も記憶が曖昧だそうです」
「そりゃ確かに興味深いね。判った。気を付けておくよ」
「では、移動させますね。帰りはお持ちの遺物で座標を設定すればよろしいでしょう」
静音は魔力糸を島まで伸ばし、そこへ三人を引っ張った。
移動したという意識もないまま、三人は砂浜に立っていた。
「おお、ありがとう」
一度移動してしまえば、行き来は遺物で可能である。学者はとても喜んだ。
「どういたしまして。それでは」
静音は姿を消した。
残った三人は顔を見合わせたが、学者はすぐに木立の方へかけていってしまい、ガイキとエイディスが溜息をついた。
「見たことあるか?」
エイディスが尋ねる。
「いや。だが、月神は夜空を「飛ぶ」という話はあるな。母に聞いた話なので、森の民の寓話なのかもしれない」
「森の民……、どんな話なんだ?」
エイディスはガイキを見上げながら言った。
「怪我をして森の泉まで辿り着いたが瀕死の妖精を、月神が助けに行く話だ。その妖精は、太陽神の愛し子だったらしい」
「太陽神が助けるのではなく?」
「夜は月神の世界なので、月神が動いたという話だったと思う」
「へえ。太陽神が夜動けないという話も初めて聞いた。では月神は昼間動けないのか?」
「いや、力は弱まるが、動けないと言う事はないらしい。昼間でも白い月が出ている事はあるからだろうと思う」
なんとなく納得してエイディスはへえ、とうなずいた。
ガイキはゆっくり木立ちへ向かいながら、何気なく空を見上げた。
まさに白い月が見えていた。
花粉の影響か妙な咳が出てこの時期は困ったものでございます。
皆さまご自愛くださいまし。




