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月影映る・海  作者: 林伯林
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 ふわふわと目の前を光の玉が横切った。




 今や魔力粒子の泉となった元火口から、精霊がぽつぽつと生まれているらしい。

 リルは楽しそうにそれらと戯れている。

 人は誰もいない島だが、精霊の住民が増えそうだ。


 「そういえば、南半球の大陸もこんな感じなの?」

 精霊と妖精の住処だと聞いた。


 「あそこの魔力脈も浅い所を通ってるから、似てるかな」

 リルが答えた。


 「そういえば、リルって元々どこに住んでたの?」


 「あっちこっちさすらってた」


 意外な答えを聞いた。


 「精霊ってそんな感じ?」


 「そういう子もいるし、一つ所にいる子もいるわ。性格と状況に寄るかな」


 「リルはあちこち行く方が好きなの?」


 「昔はそうだったかなあ」


 生まれたての精霊の手を取ってくるくる回りながら楽しげに笑う。


 「緑の精霊ってその特性上、定住を好むと言われているけど、私は違ったみたいで、変わり種って言われてたわ」


 「ふうん」


 今日ものんびりと温泉につかる静音であった。


 毎日海で泳ぎ、魚を獲って食い、温泉に入って寝る。

 健康的な生活を送っている。


 たまにハブ中継部屋へ行き、興味深い場所を覗いたり行ってみたりする。

 あの歌い手の演奏会は時々そっと訪れている。

 存在を察知されないよう気配を極力消しているせいか、あの時のような現象は起きない。

 今日も昼間の演奏会へ行って来た。


 学者たちは楽しそうに古代アルトナミを満喫しているようだった。

 時折現地の人間と交流しながら、崩れた神殿を巡って、現在よりは遥かに新しい遺物を見て一喜一憂している。主に学者が。

 何か持ち出すかと思ったが、最終的に時を超える事を思えば、安易に動かすべきではないと判断したようで、見て記録するだけにとどめているようだ。


 アルトナミ王都は相変わらず陰鬱な気配が漂ってはいるようだが、どんな状況にも人間は慣れる。

 少なくとも市民は、閉鎖された中心部と空に浮かぶ魔法陣に慣れ始めていた。

 焦っているように見えるのは王城の人間で、特に王や王子は、静音が見つからない上、学者もガイキも帰ってこず、エイディスの行方まで判らなくなって何やら難しい顔をしてしょっちゅう会議など行っていた。

 静音を捕縛する方法でも相談しているのだろうか。


 「私に出来るのは浄化だけなのにね」


 「頼まれたらやってあげる気はあるの?」


 リルが先ほどの精霊と一緒に静音の所まで降りてきた。


 「浄化?もう必要ないでしょ」


 「ほら、あの光魔法のお嬢様」


 言われて何のことかと顔をしかめる。


 「火魔獣の魔核に魅入られたお嬢様」


 ああ、と思い出す。

 不愉快な事しかなかった浄化の旅の、最大の不愉快の元。


 「全然回復しないらしくて、未だに起きられないんですって」


 静音は全く関心が無かったが、リルは動向を追っていたらしい。

 何でもあの令嬢は、リル曰く、魔力に対して人より敏感で、感応しやすいそうだ。

 魔力量が多いのもさることながら、治癒魔法の能力が高かったのも、その高感度が働いた結果ではないかと言う。

 そういう人間は、「神の祝福を受けた」存在とされ、昔なら聖女などと呼ばれたそうだが、現在、神殿に正式な呼称は無いそうでリルは不思議がっていた。

 感応性故、昔は精霊などとも交感が可能だったらしい。リルは興味津々である。

 昔、同じような人間と交流したことがあるのかもしれない。




 「治癒魔法って自分にはかけられないの?」


 「あれは治癒魔法じゃ無理よ。だって火の魔結晶の気にあてられたんだもの」


 「治らないの?」


 「無理じゃないかなあ。なんというか、恋の病みたいなものだもの」


 「は……」


 静音はぽかんとリルを見上げる。

 もう一体寄ってきた精霊と三人で、ふわふわと湯気の上を飛び回って笑う。


 「寝ても覚めても薔薇のような石を思って恋い焦がれるの。もう同じ物は二度と手に入らないから苦しいでしょうね」


 火魔獣が持ち去った石は、恐らく火魔獣とともに「返った」だろう。


 「それが「浄化」で治るわけ?」


 「「魔」をはらうんだもの」


 「へえ……」


 ぽちゃん、と鼻まで湯につかる。

 そのままぶくぶく息を吐いた。


 恋(とは言い難いが)の病には確かに治癒魔法は効くまいが、浄化魔法は応用範囲が広すぎはしまいか。

 全ての異常を取り払う、というのであれば、恋すら正気に戻すのか。


 「で、どうなの?」


 リルは無邪気に問う。


 「関わり合いになりたくない」


 あははは、とリルは笑った。


 「そっか。静音ってそういう人よね」


 「何を今更」


 弾けるように笑ってリルは空へ飛びあがった。

 浄化が必要なら神像のかけらでも握らせておけば良い。


 「楽しそうだな」


 その時シェルターからルーが出てきた。

 そしてふわふわと光が舞う周囲を見回して立ち止まる。


 「増えたな」


 「普段は見ないようにしているけど、ちゃんと見ると眩しいわよね」


 静音は空を見上げた。

 今日は結界の屋根を半分だけ開けている。

 おかげで精霊が入り放題だ。


 「ルーも温泉入る?」


 一度も温泉に入った事のないルーはちらりと静音の方を見て首を横に振った。


 「やめておく」


 魔導人形に温泉はあまりよくないのではないかとは思っている。

 それでも一応誘ってみたのは、「変容している」とリルに言われたからだ。


 「静音」


 ルーは不意に呼びかけた。


 「鳥が出たかもしれない」


 静音は顔を上げた。


 「どこに?」


 

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