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見慣れたオレンジ色の光が噴きあがり、降ってくる。
きらきらと陽光を弾きながら。
それ自身も発光しながら。
結界球にがつがつ当たって落ちる土砂の隙間からそれを見上げながら、静音は呆れたような息をついた。
「あれって、魔力脈?」
結界球に一緒に囲い込んだルーとリルに尋ねる。
「の枝、だな」
ルーが答えた。
「地下には確かに通っていたが、地表まで飛び出してくるとは前代未聞だ」
ルーもまた呆れたように言った。
「土砂が邪魔ね」
静音は、結界球を浮き上がらせ、上空から見下ろす。
「何故またこんなところへ噴きあがってきたのかしら」
延々土砂を巻き上げるので、見た目は噴火と大差ない。
「静音がいるからだろうな」
当然、というようにルーが言った。
「いや、そう言われても……」
噴水のように噴きあがる土砂の中に白いものを見つけて目を眇める。
よく見なくても、それがばらけた神像のかけらである事は明白だった。
それらだけが落ちず、噴きあがるオレンジの光の頂上でぽんぽんと跳ねている。
「あれ、またくっつけろって事かしら」
静音は魔力糸を伸ばして、それらを捕まえると、また神像の形に組み上げた。
今度は欠けはなかった。
柔らかな微笑を浮かべて、何かを迎え入れるように両腕を緩く広げて立つ白い神像。
魔力糸を外してもばらける事のないよう、間に熱を通して亀裂を固める。
「どうしたものかしら。離してもいい?」
誰にともなく呟くと、徐々に噴きあがる勢いが衰えてきた。
舞い上がった粉塵は、風に乗って麓の方へ降っているようだったが、いつもいる浜とは反対方向だったのであまり気にせず、更に風を送って視界を晴らす。
底からひっくり返った土砂は、表面に折れた石柱等の人工物の破片をあらわにしていた。神殿の瓦礫らしい。
きらきらした物が混じっている事に気が付いて溜息をつく。
「見たところ、魔結晶が沢山混じってるようだけど」
「そうだな」
ルーの声には感情が乗っていない。
ゆっくりと再び火口の縁に降り立ち、そっと神像を火口の中へ置いた。
土砂のすぐ下には、魔力脈の枝が通り、地表に近い位置までひたひたに魔力粒子に満たされているのが見ただけで判った。
このままでは、この火口の瓦礫は全てそのうち魔結晶になってしまうのではないか。
「祝福……かしら」
リルが結界球から抜け出し、神像の傍へ飛んで行ってそう言った。
心なしが嬉しげに神像の頭の周りを飛び回っている。
「何の話?」
静音が顔をしかめると、リルはくるりと回転する。
同時にオレンジの光が粉になってきらきらと広範囲に降り注いだ。
「全部静音にくれるって事かな。この島ごと」
「は?」
「温泉気に入ったのでしょ?」
「それが何」
「要するにシェルターと同じよ。くれると言うのだから貰っておけばいいわ。シェルターだって結局便利に使っているじゃない」
規模が違う……と言いかけて、そうでもないかと思い直す。
いや、暁の神官にこの島の所有権をどうこうする権利があるのか?
「難しく考えなくてもいいんじゃない?」
恨みがましく崖の上から神像を見下ろす静音にリルはあっけらかんと言う。
静音は腕を組んだ。
「一国の王とか使い切れない財宝とか、断ったんだけどね」
「誰もいない島よ。面倒はないでしょ?」
確かに、面倒はなさそうだが、なんとなくつい最近、一国の王というならこの島を望めばよかったかと思った事があったので、思考を読まれているようで、面白くない。
静音は、火口へ降り、土砂の中から出てきた折れた柱を魔力糸で引っこ抜いて四本立て、その中央に神像を置いた。
柱だけで屋根はないが、まあ、形が整えばそれでいいだろう。
リルは相変わらず神像の周りをふわふわと回っている。
何か力でもあるのか。
足元を見ると、水晶のような小さな魔結晶が砂利の中に紛れていた。
それを拾い上げ、神像の足もとへ置いた。
そして背を伸ばすと、掌を一度合わせた。
ぱん、と
意外なほど大きな音が火口内に反響した。
リルがびくりと身体を震わせた。
「何……?」
恐る恐るリルが尋ねてくる。
「私の国では、神様に祈る時、手を合わせるのよ」
本来は二拝した後、二度手を打つのだったか。だが、なんとなく神官に頭を下げる気にはなれなかった。
「どう考えても、ここって聖域になりそうよね。形だけでもこの像置いといた方がいいんじゃないかと思って」
「形だけでもって」
リルは苦笑いする。
「偽らざる本音よ」
今は大丈夫でも、ここがアルトナミ北方山脈の泉や、魔沼にならぬ保証はないのだ。
神像には信仰を集めた頃の名残りがあって、微弱ながら浄化の力を放っている。
置いておく意味はある。
神の思惑も、暁の神官の思惑も、静音には判らない。リルの言うようにそのまま受け取る事は出来ない。




