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頂上の元火口へ来た。
既に噴火はおさまって長い。草木の類はあまりないが、土砂が流れこんでその殆どを埋めている。
静音は魔力視でその下を見る。
思った通り、魔力脈の枝が真下を通っていた。
以前訪れた火山島は魔力脈が活発にマグマを刺激していたが、こちらは静かなものだった。
あの時は、地下から神像の破片が飛んできたのだったが……
土砂に目を凝らしていると、所々にきらりと光る物が見える。
溜息をつきながら、魔力糸でそれらをピックアップする。
「ルー」
背後の魔導人形を呼ぶ。
「この島にも、シリル・バトゥの神殿ってあったのよね?」
***
「勿論。なにしろアルトナミ文化圏にはあまねく広がっていた信仰だ」
ルーの返答に頷いた。
魔力糸で土砂の中からそれぞれの破片を取り出し、宙で貼り合わせる。
見ている間に、抜けはあるが、一つの神像が組み上がる。
「聞く所によると、『装置』であれば、魔核をセットすると役割を果たすらしいのよね」
とはいえ、魔力糸で探ったあたりに魔核は無かった。
「誰に……ああ、暁の神官に聞いたのか?」
「ええ。この土砂の中に魔核はないみたい。あなたたち探せる?」
尋ねられたルーもリルも崖下を覗き込んではみたが、首を横に振った。
「多分、無いと思うわ」
リルは答えた。
「そう」
静音は、魔力糸を消した。
神像はばらけて落ちた。
「ここから少し離れた所にある火山島にね、火口から飛び出してきた神像のかけらがあったんだけど、設定されていた魔核があるはずなんですって」
静音は収納空間からオパールに似た魔核--魔結晶を取り出した。
「その時、これをセットしましょうかと言ってみたら、『合わない』と言われたわ。これはこれで、北の埋もれた神殿の神像に嵌っていた物で、その神像は役目を終えたのですって。だから持って行けと言われたわ」
ルーの前に持ってくる。
「あなたにも断られたわね」
ルーは微笑んだ。
「『合わない』のだから仕方がない」
「可哀想な子だわ」
静音は石を一撫でして収納空間へ戻した。
「その時、神官に言われたのよね。神像は石に合わせて作られているって。知ってた?」
ルーは首をかしげた。
「我々は神殿に関してはさほど知識があるわけではない。警備以外の関わりもなかったし、よく判らない」
そう言ってリルの方を見る。
リルは少し戸惑うような顔をしたが、再びばらばらになった神像を見下ろした。
「地中深くで見つかる魔結晶は、多くが内包魔力が大きすぎて、あまり一般的には使われないの。使いようが無いとも言うし」
溜息をつく。
「だから、神殿に寄進されることが多かったわ。そのうち、神像の中に納めて祀るようになったのよ。そして仕掛けが施されるようにもなったの。多くは害のない仕掛けで、夜自ら発光したり、色が変わったり、その程度。魔結晶で賄うには釣り合わない機能だったけど、その分長持ちはするし、神像にはそれでよかったのよ」
それだけの話、とリルは言う。
「古代アルトナミで見た青い石も、南で見た赤い石も、そういう寄進された石だと思うわ」
「あまり一般的には知られてない事だった?」
「そうかも。そもそも魔結晶が出る事自体稀だもの」
魔法が生活に根付いている世界だ。神像が光ろうが色が変わろうが「そういうもの」として受け取られて終わりか。
「シリル・バトゥが信仰されていくのを見て、リルはどう思っていたの?」
リルは再び戸惑った。
「どうって」
「知己の間柄だったのでしょう?」
ああ、とリルは頷いた。
「何をしているんだろう、と思っていたわ」
「交流はあまりなかったの?」
「信仰されるようになってからは殆ど。私たちの多くは人のいない所を好んでいたし、人の中へ入っていくシリルには近寄らなかったわ」
「積極的に人とかかわっていたの?」
「私にはそう見えたわ。別に神として振る舞っていたわけではなく、魔導士として動いていたようなんだけど、原初の精霊が実体化しているわけで、なんというか、人間には、強大な力と美貌でとても魅力的に映ったみたい」
美貌、と言われて静音は思い起こす。
確かに美貌ではあった。
だが、この世界の人間は皆、静音にとってはそれぞれ美しく、人種の違いを実感するだけであった。
「信仰が広がってからは、シリルは人の中には姿を現さなかったわ。時々、姿を変えて紛れてはいたようだけれど。神殿が建ったり、神像が作られたり、それらをどんな気持ちで見ていたのかは判らない」
「魔力変動を生き残った点については?」
「生き残ったのかしら……?」
リルは首をかしげた。
「あの時、魔力粒子で出来た者程影響を受けたはずよ。原初の精霊が全く影響を受けなかったとは思えない。きっと私と同じように魔力脈の乱れに巻き込まれて存在は裂かれたと思うわ。一度は魔力粒子に返ったのではないのかしら」
「『魔力暴走』の原因はシリル・バトゥが神託で唆したと言われて、各地の神像が打ち壊されたという話も聞いたけれど」
「私には判らないわ。でも永遠の命に厭いて、消滅を望んだのだとしても、ものみな巻き込むような事をあのシリルがするとは思えない」
「「あの」って言われてもね……。私には暁の神官は、もしそれがシリルと同一人物だとして、物事をはっきり言わない、いけ好かない人、だけど」
リルは笑った。
「私たちには、いつも微笑んで優しい人だったわ」
「へえ。ひとによって印象が違うのねえ」
あの暁の神官が……と思って、未だにそれがシリル・バトゥと同一人物と確定はしていないのだと首を振る。
一度「返った」と言うなら、中身が別人になっている可能性もある。
「最近接触が無いのは何故だと思う?」
「判らない……でも、」
リルが顔を上げた時、火口の土砂の下から何かが湧きあがってくる感覚があった。
静音は結界球を展開した。
土砂を巻き上げて湧きあがったのは、溶岩でも噴煙でもなく---
静音は目を見開いた。




