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山を登る。
元は地殻変動で隆起した山らしいが、最初は裂け目から噴火していたという。
ひと月で見上げるほどの山になった、とルーは言った。
その後、高くなっては崩壊する、を繰り返し、今の姿になったらしい。
火山活動が活発だったのは最初の百年程で、後は殆ど噴火もせず、現在はマグマが溜まっている様子もない、とルーは言う。
一万年の間に、草が育ち、木が根付き---森林になっていた裾野は魔法で移動したが、頂上近くは木立もなく、草地が広がっていた。
火山活動は止まっているという話だったが、草地を過ぎて岩場に辿り着くと、岩は黄色や白に変色していた。
「色々浸みだしてるって事?」
静音がルーに尋ねると、ルーは頷いた。
「魔力脈が影響しているようでな。とっくに火山としては終わっている筈なんだが」
「私の生まれ育った国は火山だらけだったけど、かつて言われた死火山とか休火山とかは使われなくなった筈。どこが噴いても不思議じゃないんですって」
「油断できないという事か?」
「ですって。まあ、魔法の無い世界だったから、予測だのなんだのも難しくてね」
「魔力脈もないのか?」
「無いわねえ」
「こちらは魔力脈ありきの所があるから想像が難しいな」
「成り立ちから違うわよね。多分」
宇宙の成り立ちから違うのではないかと思う。
いや、むしろ元の世界も、魔法が使える星があったりするのだろうか。
考えても仕方がない事ではあるが、時折静音は考えてしまう。
「星を繋いでいる、という伝説もある」
不意にルーが言った。
「え、他の星に行けるって事?」
先ほどまで考えていた事を読まれたのかと顔を上げる。
「そういう意味ではなく」
ルーは首を振った。
「この星が太古の昔、砕けそうになった時、魔力粒子が繋いだという話だ。そのひび割れが魔力脈となった」
「それはまた……」
ふと、夜空に輝く月の端に、一つ輝く光がついている事を思い出す。
「月も砕けそうになったのかしら」
ルーは首をかしげた。
「ほら、月の端にもう一つ星があるでしょ?あれ、この星の衛星じゃないの?」
「ああ、あれは月の周りを回っている。衛星と言えば衛星か」
「そもそも砕けかけたって、何があったの?」
「他の星が通り過ぎたという話もある。人類が生じる前の話だ。誰も見たことは無い」
「ああ、じゃあ月もその時影響を受けたと」
そういえば、地球の月が出来た経緯もそういう話ではなかったか。
「人いない頃の話なのに、なんだってそんな伝説が出来たの?」
「人はいないが精霊はいた」
静音は、ぱっとリルの方を向いた。
不意に話を向けられて、リルは驚いて飛び上がった。
「太古の記憶なんて、私には無いわ」
リルは首を振った。
「静音も知ってるでしょ。せいぜい一万年遡れるくらいしか思い出せてないのよ」
せいぜい一万年という感覚が、人離れしているわけだが。
「精霊が語る言葉を聞く事が出来る人間が、昔はまだ多かったのだ。伝説はそこから生じた」
「ふうん」
静音は、空を見上げた。
東に白い月が姿を見せていた。その周りを回っているという小さい星は見えなかった。
遠征中、魔力蛍を飛ばしたことを思い出した。
どんどん上昇していき、やがて宇宙空間へ飛び出した。あの時月はどの位置にあっただろう。まずは月へ行ってみるのも楽しいのではないかと思う。
どうせ時間はいくらでもあるのだ。
そう思って、顔を上げると、前方に湯気の立つ池が見えた。
「あれ、温泉?」
「そのようだな」
近づいてみると、底から湯が湧きだしているようで、綺麗に澄んでいた。
縁からあふれ出した湯は、斜面を流れ落ちて小川を作り、下方の森の中へ流れ込んでいる。
「お湯はちょっと熱め」
静音は魔力視で池を見た。約五十度程度。周囲を見回すと、小さな水たまりが幾つもあり、その全てから湯が湧いていた。
「ちょっと、ここ、いいわね」
静音は、にやりと笑った。
温泉入りたいです。
医者に止められているので入れないのです。悲しひ。




