03
言うが早いか静音はその島へ転移した。
白い砂浜と、エメラルドグリーンの遠浅の海。
穏やかな波と晴れた空。
それはそれは美しい場所だった。
早速砂浜にシェルターを置いた。
中で着ている物を全部脱ぎ捨て、砂浜に走り出して海へ飛び込んだ。
水は透明で濃い青の小魚が群れているのが見えた。
この世界の生き物は何が魔物か判らないので、一瞬食いつかれるかと警戒したが、シールドを張りっぱなしであれば何の問題もない事を思い出して、そのままぽちゃんと頭まで水の中へ潜った。
息継ぎの心配をする必要もなく、ゆっくりと程々の深さを泳ぎ、どこまでも続く砂の海底を眺めた。
潮の流れで砂が堆積しているのであろうが、大洋の真ん中でここだけ浅くなっているのは不思議だった。
かつては火山でもあったのだろうかと思われたが。
静音は浮き上がって仰向けにひっくり返った。
空を見つめ、目を閉じる。
深く深く息をついて力を抜いた。
ゆらゆらと揺れながら、魔力糸を伸ばす。
水面を水中を水底を。
砂の下を。
魔力脈はこの下も通っているが、それとは別の魔力も感じた。
とぎれとぎれの古い何かの残滓。
静音は目を開き、島の方を見やった。
砂浜には、「一部だけ」引きだしたシェルターが白く陽光を弾いていた。
端はぼやけるように透けて「空気に」溶けているように見える。
その大半を次元の狭間へ押し込んでいるからだが。
その白いシェルターの上に、不自然な影が差していた。
静音は一瞬でシェルターまで移動する。
空気の中の澱のように見える「何か」がいた。
魔力視にはそれはくっきりと人型に見えた。
静音は虚空から杖を出し、その人型へ向かって魔力を込めて薙ぎ払った。
空気抵抗しか感じなかったが、澱はかきまぜられたように揺らぎ、シェルターの上から遠ざかった。
魔力糸を飛ばし、着地したとおぼしき場所へ刺突を念じる。
目に見えないナイフが数本砂に突き刺さった。
何処からともなく青い液体が飛び散った。
静音は多少驚きながらも魔力糸を操って「それ」を絡め取った。
ぎりぎりと締め上げると漸く姿を現したそれは、青みを帯びた銀の髪と透き通るような肌をした線の細い、世にも麗しい「人」だった。
「あら……まあ」
あまりに予想外な「人」の出現に、静音は言葉をなくしてその人物を見つめたのだった。