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魔法陣で世界中を監視すると言った所で、定点観測に近いので、詳細に知りたければ魔力を流して視点を移動させるわけだが異世界や時の上流、下流でなければ、静音の場合は魔力蛍を飛ばした方が早い。特に行った事がある場所の場合、派遣も移動も容易だ。
というわけで、氷河の回廊は、まず間違いなく北方山脈と当たりをつけて魔力蛍を飛ばした結果、魔法陣の映像と同じ場所へ出来がかなった。
さて、ここの氷壁には、火魔獣はじめ、竜まで「神様作成」の幻獣が保存されて出番を待っていたはずだ。
約束された浄化の神子を鍛え上げ、伝説を残すための生贄。
滅びの魔法を発動しつつ、「神」はそれを退ける者の為の装置も用意した。
なぜそのような相反する事を行うのかと暁の神官に問えば、「神のする事はわからない」と言われた。
一体、「神」とやらは、どんな理屈に基づいて行動しているのか。
考えながらも、魔力蛍をどんどん回廊の奥へと進ませる。
辿り着いたのは、浄化した泉のあった場所。
竜の羽ばたきと咆哮によって崩壊したと思ったが。
水は枯れずに湧き続けているらしい。
崩れた氷壁を飲み込んで、清らかな水に満たされていた。
かつてその下には魔力だまりがあり、そこを通って湧き出したがために異常なほどの魔力を帯びた水がこの閉じられた氷室ごと空間を歪めていた。
魔障の泉だったのだ。
湧き出した水はどこへも流れて行かず、冬には凍り、夏には結界に触れて蒸発し、ますます内部の魔力粒子の密度は増し。
泉そのものは清廉であったのに、帯びた魔力の膨大さに周囲が耐えられず、じりじりと全てが歪んでいった。
魔力粒子そのものも。
歪みによって練り上げられ、圧をかけられ、負の力を帯びる。
それを導いたのは「神」だったのだろう。
「神」以外に出来る事ではない、と言外に暁の神官は言った。
負の方向へ魔力粒子を向ける事こそがそれということだったのか。
そしてある時、閉じた空間から「障り」となった魔力粒子がその圧縮された負の力故に結界を超えて溢れ出す。水を染め、その水が地下を通って魔力脈に沿って流れていた地下水脈に到達。更に汚染を広げた。
魔力粒子は循環する、とリルは言った。
まさしく循環しようと、したのだろう。
魔障も。
だが、変容していたが為、魔力脈へ帰ることができず、浅い場所に吸い寄せられるように溜まるばかりであり、やがてそこから、「障り」によって変質した魔を帯びた水と、魔を帯びた影が這い出した。
まだるっこしい事だ、と静音は思う。
真綿で首を絞めるような。
あの時静音が神官に促されて行ったのは、まず泉への魔力供給元である魔力だまりの消去と閉じられた空間の開放。
開放は竜によって行われた。
そういう仕組みになっている、らしい。
あの竜は、閉じた空間を開くためだけに存在している。開くために、神子と戦う。
そして、神子に倒されれば、次の個体は速やかに準備される。
***
魔力蛍はやがて、水面に浮く魔法陣を発見した。
その周囲をふわふわと、小さな精霊が舞っていた。
泉から生まれているようだった。
「魔力は全て吸い上げてしまったと思ったけれど……」
泉と魔法陣を魔力蛍で観察するが、今一つはっきりしない。
そもそもこの場所はもうすでに魔力脈の上には無い。
竜が峰を破壊した時、氷室ごと吹き飛ばされたのだ。
閉じられた空間はそうやって解放されたはずだった。
疑問は解消されず、静音は、魔力糸を伸ばし、その場へ移動する。
***
「だから、どうして一人で行こうとするの!」
今回もちょびっとです。申し訳ない。




