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月影映る・海  作者: 林伯林
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28

  

 あの水蛇はどの程度で王都に着くのか、また着いて何をするのか。人を襲うのか。


 「わかんない」


 リルは首をかしげる。


 「明日には王都に着くだろう」


 ルーは答える。


 「あと三体もあるんだけど……これらが暴れまわったら王都壊滅するんじゃない?」


 「かもしれんな」


 どうなるのか予測もつかないので、暫く様子を見ることにした。


 「助けに行くって選択肢は無いのね」


 リルの言葉に肩をすくめた。リルとて助けに行けと言っているわけではない。単なる確認だ。


 討伐は慣れた者に任せるべきと剣を取り上げたのは王子だ。静音は決して慣れているわけではない。


 「そういえば、学者先生もガイキも今は呼べない所にいるわね」


 あの二人以外にこれらに対応できる者がいるのだろうか。


 「まあ、私には関係ないか」


 手の平を軽く上へ向けると、魔力蛍が幾つか宙に浮かんだ。

 ふらふらとリルが寄ってきたが、その前にいずれも姿を消した。


 「むう~」


 リルが妙な声を出してすねた顔をした。

 静音は笑って指先に小さな魔力塊を練って差し出した。リルはぱあっと顔を輝かせてそれを小さな両手で受け取ってぱくりと飲み込んだ。


 「ん~」


 嬉しそうに笑ったリルの全身がぱっと光を放った。薄緑を基調に虹色の遊色を浮かべて。


 そういえば、氷河の下の泉から吸い上げた魔力を固めて飲み込んだことがあった。味どころか物質としての感触もなく、するっとした気のようなものが喉元を通り過ぎた感触がしただけだったが。


 もう一度、指先に魔力塊を作りだした。

 久しぶりにじっくりと眺めてみる。

 オレンジ色のそれは、いつの間にか虹色の遊色を帯びるようになったらしい。ファイアーオパールに似ていた。


 「私の魔力って質が変わった?」


 リルに尋ねてみる。


 「ん~、純度が上がった、かな。極上」

 魔力の純度とは。

 静音は一瞬首をかしげたが、魔力粒子の濃さででもあろうか。

 混ざりものでもあるというのだろうか。


 「純度の低い魔力ってどんなの?」


 「うんとねえ、ざらざらしてるの」


 「ざらざら?」


 「そう、粒がそろってないというか、とげとげしてるっていうか」


 くるっと回って静音の指先の魔力塊に近づく。


 「粒がそろって均一で偏りがなく練り上げられた魔力が上質」


 結晶のようなものを想像すればよいのだろうか。

 純度が低い魔力とは、凍りかけの水のようなものか?


 「静音はね、常に魔力を薄く均一にまとわせているでしょ?普通はすごく難しい事なのよ。それは毎日一秒も休まずに魔力制御の訓練をしているようなものなの」


 つまり、修練の結果らしい。


 「最初に魔力貰った時、びっくりしたの。こんな魔力見たことがなかった。存在が消えそうになっていたのに、急に極上の魔力が流れ込んできて意識が明瞭になりすぎて動転しちゃって」


 あの時の騒ぎを思い出した。確かに気が動転して行動の制御ができなくなったと言うなら納得もできた。


 「そういえば、私も……」


 ルーが思い出すように呟いた。


 「魔核に魔力を注がれた時、あまりな事に意識がとんだな」


 注ぎ込まれた眩い魔力の本流、迸る軌跡の残像を今でもまなうらに描く事が出来る。


 「ふうん」


 静音はずっと自分の周囲にあるものなので、今となっては空気と等しく、何を言われてもあまり実感が湧かない。 


 「これからは気を付けた方がいいのね。まあ、同じことがそうそうあるとも思えないけど」


 気を付けようもないだろうとも思うが。


 「ルーと私で二回よ。まだあるかもよ」


 リルが笑いながら言う。


 「御免蒙りたいわ……」


 静音は首を振った。


 「静音は面倒に巻き込まれがちよね。意外とお人よしだし」


 「あなたがそれを言いますか」


 リルに向かって静音は指を弾いてみせた。

 勿論、実体がないリルには効くはずもない。


 「ま、確かにそのお人よしのおかげで私は今存在していられるわけだけども」


 当たったわけでもないのに、腕で頭をかばいながらリルは浮き上がった。


 「私、静音の役に立ちたいわ」


 不思議な物質で出来た天井近くに浮かびながらリルは改まった声で言った。


 「充分役に立ってるわよ。私は魔力の事もシリルの事もよく知らないもの」


 「そう?」


 「ええ。ただ、別に役に立ってほしくて契約したわけじゃないし、可愛いまま存在してくれればそれでいいわよ?」


 精霊は可愛いのが仕事ではないか、と静音は最初に思ったのだった。特にルーの対応を見ていてその感を強くした。


 「可愛いだけでいいの?」


 「いいわよ」


 ふふ、とリルは笑った。


 楽しげにくるくると静音の周りを舞う。


 「でもね、私たちは契約者がとても慕わしくて役に立ちたいものなの」


 「頼みたいことがあれば遠慮なく言うわよ」


 「ん。そうして」


 そうしてふわふわとルーの傍へ飛んで行った。


 「ルーもね、可愛いだけでいい?」


 「勿論。というか、ルーは美しいわね。美しいだけで充分よ」


 極上の美貌だ。そういうとルーは複雑そうな顔をした。


 「私は、本来は人間に奉仕するよう作られているのだ」


 「さっきも言ったけど、頼みたいことがあれば頼むわよ。

  アイデンティティの問題?」


 こちらの言葉で適当な訳語があるのかどうかは判らなかったが、敢えて元の世界の言葉を使ってみた。


 「自己を自己たらしめる……いや、そういうわけでは」


 何やら妙な翻訳がされたらしい。


 「ここに籠っているのが好きならそれでいいのだけどね。リルじゃないけど「役に立とう」なんて思ってそうしてるなら、気を使わないで」


 立ち上がって、ぽんとルーの肩を叩いた。


 そして、氷河の下の回廊を映し出す魔法陣の方へ足を向けた。


ちょっとだけ。

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