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砕かれた杯をテーブルの上に出す。
破片は、どれをとっても木のかけらに見えたが、リルは違うと言う。
「一見木だけど違うわ」
「それじゃ何?」
「多分ね、石」
「石い?」
静音は破片を指先でつまみあげてじっくり眺めたが、見た目も手触りも石とは思えなかった。
「じゃあ復元て無理?」
「出来ない事もないけど、それなら静音だって出来るじゃない」
言われて、はたと気が付いた。
確かに、砕かれた神像の破片を集めて元の姿にした事がある。
リルの前で披露したことはなかったように思うが。
「そう言われたらそうね」
神像の時のように、パズルのように破片を合わせ、間に熱を通してヒビを塞ぐ。
神像のような大きなものではないので、あっという間だった。
そして、力が通る感触が、確かにそれが石であると告げていた。
「これが神器……?」
リルが興味深そうにくるっと周囲を回った。
「らしいわ」
試しに魔力を注いでみた。
淡く金色に光るがそれだけだ。
「何の力もなさそうよ?」
「まあ、暁の神官曰く、私の召喚が叶ったのも「力の残りかす」だったらしいから」
「へえ」
なんとなく不審そうにリルは杯の縁に触れる。
「魔力を受ける回路はある」
「まあ光るくらいだし」
「神器って言われちゃうとね……」
リルの言葉に静音は笑う。
「あの人の言う事だからねえ……」
どこまで信用して良いのやら。
「そもそも最近接触が全くないのよねえ。前なんてダラダラ寝てたら説教かましてきたりしたのに」
「シリルが?」
リルが真ん丸に目を見開いた。
「暁の神官が」
笑いながらもそこは分けて答える。
同一人物かどうか静音の中では定かではないからだ。
復元したものの、この神器をどう扱うべきか判断が付かない。
矯めつ眇めつしていると、シェルターの中からルーが出てきて静音を呼んだ。
「見てほしいものがある」
その固い表情に、束の間の平穏だっただろうかと、遠くを見やった。
***
数日ぶりに訪れたハブ中継部屋は、幾つもの魔法陣から浮かび上がる映像に四方の壁が埋め尽くされていた。
学者とガイキは、今は、山を越えた所にある集落跡の中心地にいて、小さな神殿を調査しているようだった。
楽しそうだとふらふらそちらへ行きかけ、ルーに止められる。
「そっちじゃない」
「どうせだったら楽しい方がいい」
「今までここに寄りつかなかったくせになにを言っている」
華奢な手で静音の手を掴んで反対側へ引っ張っていった。存外力強い。
ルーが示した魔法陣の上に浮かぶ画像には、大きな蛇が移動する様が映っていた。
静音はその姿に見覚えがあった。
浄化の旅覚書の二番目の障害、水蛇だ。
「これ、どこの映像?」
「アルトナミ王都東の森」
「王都に向かってる?」
「まさに」
首をかしげた。
「火魔獣は魔核を取り戻す為に出現したと思うんだけど、水蛇は何の為かしら」
「取り戻したいものもないのなら、単に辻褄を合わせるためじゃないの?」
静音の背後から、リルが暢気に言った。
「何の辻褄?」
「だって、火魔獣の次は水蛇なんでしょ?」
静音は目を見開いた。
「それだけの為に?」
「『そういう風になっている』のなら仕方ないんじゃないかしら」
何を言っているのかと、問いかけて、神とは一種のシステムと言った神官の言葉を思い出す。
そういう手順があらかじめ組まれているのだとしたら。
火魔獣が出来したら、次は水蛇が目覚める。
「あ、めんどくさ……」
静音は思わず呟いた。
溜めて多目に更新する方がいいのか、まめにちょっとずつ更新する方がいいのか。




