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月影映る・海  作者: 林伯林
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24

間違って一つとばして更新してしまいました。

そっちは削除しましたので、これの後上げ直します。

折角ストック作ったのになんてこったい……

  

 「セラ……」


 学者が呼びかけると、渡り人は一瞬だけ目を瞠った。


 「まあ、ここは」


 そして周囲を見回す。


 「妙な所へ飛ばされたものですね」


 「そうなんだけど、いや、なんで君……」


 学者もあまりに意外な出現に言葉が出ない。


 渡り人は深呼吸した。


 「魔力が大きく揺れましたので、気になって追ってみたのですよ」


 「ああ、そうなんだ。ええと、じゃあ、僕たちが移動した神殿から移動した?」


 「ええ、まあ、そうなんですけれどもね」


 渡り人は腕を軽く振った。

 薄桃色の軌跡が腕を追う。


 「完全にここの時空に現れたわけではないようです。なんだか中途半端だわ。同じ魔法陣で移動したはずなんですけれどもね」


 「触っても?」


 ガイキが尋ねる。

 渡り人は首をかしげた。


 「どうぞ」


 手を伸ばす。


 剣士の武骨な手が渡り人の白い指に触れようとして、通り抜ける。


 「なるほど。実体化出来ていないという事か」


 「ちょっとずれた時空に出てしまったようです。意図的なんでしょうね」


 ガイキは一瞬動きを止め、渡り人は曖昧な笑みを浮かべ、学者は苦笑した。


 「君、ここがどういう場所か判る?」


 学者は尋ねた。


 「そうですね。大分過去のアルトナミのどこか、でしょうか。魔力変動の後ではあるようですが……リル?」


 渡り人が背後を振り向き、そこに誰かいるのか何かを話しているようだった。


 「地殻変動などが、だいぶ落ち着いた頃、らしいです。大陸の半分が沈んで、北方山脈はまだ隆起する前?途中?ああそう」


 ふわふわと、オパールのような様々な色を浮かばせる小さな光が渡り人の肩から前方へ漂い出てきた。

 本体は薄緑のようだったが、よく見ると、小さな人の形をしている。

 学者は目を輝かせた。


 「セラ、それ精霊……?」


 渡り人は二、三度瞬きして、それから笑った。


 「ええ」


 人の形、と認識した途端、それは薄緑の髪をなびかせた、幼い少女の姿になった。


 「こんにちわ」


 少女は渡り人の腕にしがみつきながらも挨拶した。


 「こんにちわ。僕はアディトリウス」


 学者は好奇心一杯の眼差しで見ながらも挨拶を返した。


 「私は、リル。静音に名前を貰って、静音の精霊になったの」


 にっこり笑って、近くに立つガイキを見る。


 「ガイキだ」


 無愛想な自己紹介だった。


 「彼は剣士よ。あちらは学者。塔の魔法使いだそうよ」


 渡り人の捕捉に精霊は頷く。


 「知っているわ」

 

 「あら、そうなの?」


 静音が意外そうに目を瞠った。


 「ああ、そうね。あなた『見える』のだったわね」


 『時見』が出来ると聞いた時は、便利に使えるのではないかと思ったのだったが、完全には力を取り戻していない上、特に未来に関しては、常に揺れ動いている為確実な事は言えないのだと、もっともな事を聞かされたのだった。


 「見えるって、何が……?」


 学者が問うが、リルは微笑むのみ。


 「それで、学者さん、望みのものは見つかったのかしら」


 リルは別の問いを問う。


 学者は一瞬言葉に詰まり、そして肩をすくめた。


 「何があるか判らない上、望みも何も……。僕は知らないものは全て有難く受け入れるよ」


 「この神殿をもう少し調べるといいわ。あなたなら色々見つけると思うわ」


 「そうかい?なら楽しみに調べようか」


 「ええ。それと」


 頂の方角を見上げる。


 「この山脈を越えても、人の住む場所は遠いわ。この時代の事を見て回りたいのなら暫く周遊するのもいいかとは思うけれども」


 「僕にとってはとても魅力的な話だ」


 学者は目を輝かせて答える。


 「帰る方法は判るのか?」


 ガイキが現実的な事を問うてきた。静音は笑い、精霊は頷く。


 「転移の魔導具を持っているでしょう?」


 精霊は学者に言った。

 学者は腰のバッグから、水晶玉を出してきた。


 「そう、それ。それはね、距離の移動だけじゃなく、時間の移動も出来るの」


 「あ、もしかして、一つだけ意味が分からない座標があったんだけど、それ?」


 「ええ。変更の仕方はあなたなら判るでしょう」


 「わかるけど……」


 学者は中を覗き込みながら口を濁した。


 「何?」


 「大幅に時を戻したら、ここがどうなってるか判らない。戻っていきなり土砂に埋まって死ぬ、とかありそうだよね。あと、セラと違って、僕の魔力量そこまでないよ」


 精霊は首をかしげ、静音を見上げた。

 静音は精霊の耳元で何事か囁いた。


 「ええとね、魔核を使うといいわ」


 精霊はこともなげに言うと、ふわっと浮き上がって神像の右目にとまった。


 「この石、充分に力があるから、元の時空への時移動くらい簡単に出来るわ」


 「神像の魔核なんて勝手に使って大丈夫なのかい?」


 「いいでしょ別に。あと、この石と、あそこにあった赤い石、呼応し合うように調整されているから、この石使うだけであそこへ戻れるわ」


 意外というか思った通りというか、やはりこの神像とあの地下神殿の神像は関係があるらしい。


 「僕たち、あそこの魔法陣に吸い込まれて、山の麓の更に先の海岸に出たんだけど、今の話が本当なら、なんでここへ直接出なかったんだろう」


 言われて精霊は海岸の方を見やり、空高くふわふわと舞い上がった。

 暫く上空から周囲を眺め、下りてきた。


 「あそこねえ、神殿があった所みたい」


 精霊の言葉に学者もガイキもぽかんとして顔を見合わせた。


 「小屋が一つあるきりだったけど」


 「ええとね、この像、元はあそこにあったみたいよ」


 土台をくるっと回って、精霊は瞳を光らせた。


 「うん。この装置の魔法の残滓、あそこにもあったわ」


 言われても、小屋の中は、思い出す限り、何もなかった。

 不自然なくらい、何も。

 それに思い至って、学者は「あ」と声を出した。


 「維持の魔法」


 精霊は頷いた。


 「ええ。この神像最近まであそこにあったみたい。移動と同時に維持の魔法が切れたんだと思うわ。というか、あなたがたが現れたと同時にここへ移動したのかもしれない」


 「あの小屋、なんだったんだろう」


 「さあ。でも、これを隠しておくために今まで維持されてたんでしょうね。多分」


 「玉突きみたいね」


 静音が何気なく言う。精霊は笑う。


 「どうかした?」


 静音の問いに精霊は首を振る。


 「いいえ、なんでもないわ」


 そして学者を見る。


 「あなたがここで何を見て、何をするか、それはあなた次第なの。好きに過ごすといいわ」


 「それって、何かの意思?」


 「そうね。でも別に強制じゃないから、帰りたければ今すぐ帰ってもいい」


 リルが神像の右目の傍まで寄って両手をさしだすと、青い石が外れてその手の中へ落ちてきた。

 精霊に実体はないが、魔力でいかようにも出来るらしい。

 次元を多少違えていても。

 ふわりと学者の目の前まで降りてくると、その石を差し出した。

 学者は手を出してその石を受け取った。


 「シリルは「なるようにしかならない」って言ってたわ」


 「シリル?」


 精霊は神像を見上げた。


 「彼の名前。シリル・バトゥっていうの。その昔、大陸中に信仰された事もあったけれど、別に彼が望んだわけではなかったわ。時によって崇めたり、貶めたり、人間って勝手よね。まあ、それすら「なるようにしかならない」って彼は何も気にしてなかったけれども」


 「姿かたちは、暁の神官と同じです」


 更に静音が言い添えた。


 「シリル・バトゥ本人かどうかは判りません。私が会ったのは、思念体がとった形でしかありませんでしたから」


 「ちょっと、待って」


 情報量が多すぎて、学者は頭を整理しようと手を上げた。

 だが、その途端、薄桃色の光が強さを増して点滅し始めた。


 「時間切れのようです」


 静音が言うと、リルはさっとその肩に舞い戻った。


 「え、もう?」


 「そもそも私たちの役割は、あなたがたに帰還の方法を知らせる事だったようですし、こんなものでしょう」


 そう言って、背中を向ける。どこかを歩き去るかのように。


 「待って待って。また会えるよね?」


 学者が慌てて呼び止めると、渡り人は振り返った。


 「ええ。必要であれば」


 静音は笑んで、だがその姿はうっすらと透けはじめた。


 「お気をつけて」


 それきり、薄桃色の光ごと、消えてしまった。

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