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月影映る・海  作者: 林伯林
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 エイディスは北方山脈を歩き回っていた。


 渡り人の監視護衛任務は途中解除となり、現状は山越えが可能になったと思われる崩れた「月照の峰」と更に北側の調査を行っていた。

 本格的な調査は学者や騎士等組織して来年以降に予定されているが、エイディスは宰相の命を受けて先んじて足を踏み入れていた。


 実を言えば、もう王家や宰相家の「調査員」は辞そうと思っていた。

 しかし、宰相の息子、リシュリアに「どうせ北方山脈へ行くつもりなのだろう?いくらかでも資金が出る方が良いのでは?」と言われたのだ。


 爆発によってえぐり取られ、崩壊した峰は、歩きにくいことこの上ない。

 雲が湧き、視界は真っ白である。


 エイディスは「塔」からの購入品であるゴーグルをかけた。

 視界は薄暗くなるが、雲の影響は消えた。

 出発前、塔のアディトリウスの所へ赴き、北方山脈行きを告げた。

 学者はいくつか魔導具をよこし、使い方を説明すると、「お代は宰相家に請求するよ」と言った。

 前もって連絡を受けていたのだろうか。

 「僕もまたそのうち行くけれど、何か見つかるといいね」

 また、と言った学者にエイディスは反応しなかった。

 恐らくどうやってか行った事があるのだろう。この学者に関しては不思議ではなかった。

 「事前調査に行くだけです。何かを見つけるつもりはありません」

 言うと、学者は笑んだ。

 「そういうことにしておくよ」


 エイディス自身も、何を求めてここへ来たのか自身で理解していなかった。

 だが、ここ以外で渡り人につながる場所が思い浮かばなかったのだ。



 宰相に呼び出されて執務室へ行くと、王と第一王子が待ち受けていた時の事を思い出す。

 皆が忘れかけていた神器に魔力量が多い魔導士数人と王と王子が魔力を注いだ結果、神子召喚が成ってしまったと聞かされた時の驚き。

 浄化の旅に同道し、警護と監視を命じられた。

 突然見知らぬ世界へ呼びだされた神子は、若い女だった。


 城にいる間に教育を受けたと聞いていたが、どういった扱いをされたものか、終始口数少なく、表情は硬く、視線は冷ややかだった。

 警戒心を解かせて信用させろとは言われておらず、むしろ距離を置けと命じられていたため、そのようにつき従っていたが、本人も誰かと親しくしようとする様子は見せず、思惑塗れの貴族たちはともかく、騎士たちの中には「気の毒な女性」に手を差し伸べたそうにしていた者たちもいたにも関わらず、ものみな拒絶する眼差しはそれらを遠ざけ、一人の味方も傍に寄せ付けなかった。

 何かしら嫌がらせを受けている事は、いくら隠れて行われていても勘づくものは勘づく。

 平然と受け流す渡り人は、他者の助けを必要としていないように見えた。

 伝説の神子を目の辺りにして、少しでも交流したいと思っていた者たちの数は多かったろうが、神子の静けさは怒りの深さにも感じられ、遠巻きにするしかなかったのだろう。 

 誰も、本当に誰も、彼女に寄り添おうとはしなかった。

 茨の垣根を乗り越えて近づいたのは剣士と学者だったが、彼らでさえ、優先させるべきことは他にあった。


 結果、ある日あっさりと神子は姿を消した。


 旅の間、彼女を注意深く観察していたエイディスは、その足取りが魔力による筋力強化で補助されており、「意外と体力があるのだな」などと暢気な感想を述べる騎士たちを尻目に、日々長時間に及ぶ魔力制御と鍛錬を行っているのと同義だということに気が付いていた。

 浄化の仕方や魔物のあしらいを見ていても、結界の使い方は絶妙で、アリオが火に呑まれた時、頭から水を浴びせたのは彼女だった事にもエイディスだけが気が付いていた。

 彼女は常に魔力をまとっていた。

 近づくと皮膚がビリビリするほどだった。

 何故誰も気が付かないのか不思議だった。

 見ているだけでも様々な魔法を駆使しているのは明白だったのに、そのことにも誰も気が付いていないようだった。

 岩のゴーレムを、見たことが無い魔法で倒したのを見た時は、流石に皆騒ぐだろうと思ったが、「神子なのだから」「浄化の魔法だろう」と誰もそれが何の魔法であるか追求しようとはしなかった。


 エイディスはその時初めて、状況に恣意的なものを感じた。


 誰かがこれだけの人数を思考誘導している。

 そんなことができるのは、ただの人ではありえない。


 エイディスは、学者の最後の報告書を読み、そこに記載されていた「暁の神官」に注目した。

 彼女以外、誰も姿を見たことが無い「神の使徒」。

 その昔も被召喚者であり神子であるトーヤに加護をもたらしたという、存在さえ架空の物と思われていた導き手。

 彼女に水晶の腕輪を渡し、それは彼女以外手を通すことも叶わなかったという。



 顔を上げると、少し先に何か光るものが見えた。



 ゴーグルを外すと直視では見えない。

 もう一度ゴーグルをかけ、薄暗い空間の中、ふわふわ動く光へ向かって歩き始めた。

 

 「何か」が現れるに違いないと、確信めいた勘は旅立つ前から感じていた。



いよいよ自転車操業に近づいてきました。

更新が毎日ではなくなるかもしれません。


が、がんばります……

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