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落ちたのは、壁面のタイルだった。
一つ落ちると、ざらざらと、神像の描かれた一面が崩れ落ちる。
ガイキは祭壇を飛び下りると、学者の前に出たが、学者は、ガイキの背中から顔をだして、崩れる壁面を覗き見る。
絵の向こう側には、何もないグレーの壁。
だがそこに背後の神像の左目から光が差すと、壮麗な都市の映像が浮かび上がった。
ガイキはすかさず魔導具を「呼び寄せ」、その画像を記録する。
映像の中に、陽光を反射する高い塔が映っていた。
「あれ、硝子宮か?」
伝承に聞く、古代国家の象徴。
「ああ……多分そうだろうね」
学者は生唾をのみこみながら答えた。
映像はゆっくりと塔へ近づき、入口から内部へ入った。
広い空間の中心には、今背後にある神像と同じものが立っていた。
両目には、青と赤の石が嵌り、淡い光を帯びている。
周囲には像を囲むように幾つかの魔法陣が金色の光で描かれ、虚空に浮かぶようにゆったりと、くるくると神像の周囲を巡っている。
それらの魔法陣の動力源は中央の像の瞳の石と思われた。
何の為の魔法陣か、ガイキは目を眇めた。
読み取ろうとしたが、金色の光は滲んでぼやけた。
ぼやけた途端、魔法陣はほどけた。
ほどけて、線から面になり、さざ波のように中心の像の足もとへ押し寄せた。
柔らかく、実体も持たないだろう金色の光は、像を足元から這い登り、その表面にヒビを走らせ、やがて砕いた。
空気が振動するのが映像からも伝わってきた。
四方からガラスが割れ落ちて像に降り注ぎ、神像はばらばらになって、金色の光の奔流に呑まれていった。
映像は塔の外へ切り替わる。
天にそびえていたガラスの塔は、ゆっくりと横倒しになっていく。
周囲の建物を押しつぶしながら。
地は蠢き、都市は瞬く間に壊れていく。
やがて遠くから真っ黒い波が押し寄せてくる。
ぱつんとそこで映像が途絶えた。
「これは、魔力暴走の瞬間か?」
ガイキが呟く。
「そうだろうね」
学者の声も掠れていた。
「何故こんな記録がこんなところに残されているんだ」
ガイキは溜息をつくように神像を見上げた。
神像の瞳はまだ光っていた。
もう一度グレーの壁へ目を向ける。
壁には魔法陣が浮かんでいた。
学者はふわふわとした足取りでそちらへ向かう。
「おい、ちょっと待て」
ガイキが学者の肩を掴んで引きとめようとしたのと、学者が右手を伸ばし、星の刻まれた手の平を魔法陣の中心に合わせたのは同時だった。
魔法陣の中心から、先ほどの映像でも見た金色の光があふれ出してきた。
ガイキは学者の身体をそこから引きはがそうとしたが叶わず、それどころか押し寄せる力の波に押されて学者ごと魔法陣へ引っ張られた。
学者はガイキの顔を振り仰いで、目を見開いたが、その身体の半分は魔法陣の中へ飲まれていた為、どうにもならず、ガイキも一緒に魔法陣の導く場所へと飲み込まれていった。




